第二章

幻影が中田に入ってくる。幻影がゴータマの言葉となって語り始める。

「わたくしが〈火を焚くということは単なる行為にすぎず、火が何かを浄めるということはない。また、祈るだけでは、それを成就する条件とはならない。〉と告げると、ウルヴェーラー・カッサパは語気を強めてわたくしに反論してきた。

『沙門よ、ゴータマといわれたな。よう聴かれよ。バラモンが行う祭祀に効力があるのは、バラモンの行為は宇宙の根源と結びついているからである。正しい祭祀で神々に祈願することによって、宇宙の運行さえも自由に操つることが出来るのである。

太陽は自由に昇るのではなく、バラモンの護摩供養によって昇らせるのである。この神聖な火は決して絶やしてはならぬ、と教えられている。火が燃え盛れば燃え盛る程、我々は清浄になる、と教えられている。』わたくしは言った。

〈火が燃え盛れば燃え盛る程、わたくしたちは清浄から遠去かる。〉

『なんと、そなたはバラモンの権威に挑戦しているようだが、理由を聞こう。場合によっては生きてここから出ることは出来ぬ。外には、わしの弟子どもが殺気だって様子を窺っている。』

〈カッサパよ、凡ては燃えている。〔満足することがなく、非常に欲が深い。〕という炎(ほのお)をあげて燃えているのだ。〔自分の意志に逆らう者に激しく怒る。〕という炎をあげて燃えているのだ。〔真理を理解する能力がない愚か者。〕という炎をあげて燃えているのだ。

欲望の激しい営(いとな)みによって破滅した者は、掃いて捨てる程いよう。欲望の高ぶりを静め安らぎを得るにはどうしたらよいか。欲望の炎を抑えない限り、決して清浄にはなれぬ。聞く耳があるなら、そなたに説こう。〉

『ゴータマよ、いや、口が滑った。ゴータマさま、今夜はわが庵にお泊まりし、わしが納得ゆくまで教えていただけないであろうか。わしも兼ねがね、火を焚き、神に生贄を捧げても、気持が晴れやかにならないのは何故か、気になってはいた。無礼の段、お許し下され。今、何か、暖かいものをお持ち致しましょう。』