第一章
5 私の挑戦
『うまい具合に大学受験の勉強で時間をつぶすことで、今はなんとかしのいでいるけれど、頭のさほど良くないぼくには、一流大学に行って一流企業に入って、なんていう夢を抱くこともできず、もんもんとし、勉強が手に付かないことだってしょっちゅうある。
ぼくはよく思う。こんなことして何になる? ぼくがやるべきことは、勉強して、目的もなくフツウの大学に通うこと?
もっとぼくにふさわしい、ぼくにしかできないことはないのだろうか? 小説? けど、もう書いてないし、高二の時に書いた神人類の小説はラクセンした。才能なんてまったくなし! 結局ぼくは、ただの、いや並以下の、つまらない人間でしかないのだろうか?
やるべきことを求めて、モンモンとして、結局やるのは日課のオナニー! 大した才能だってさ! でもモンモンとした気持ちを晴らすものが、オナニー以外にも見つかった。この日記。おかげで勉強時間かなりロスしたけど、まあしょうがない。』
こんなふうに自分の感情やどろどろした思いを吐き出すようになり、なんとか心のバランスを保ちながら、ようやく二流の私立大学に合格することができたのである。しかしその頃、更に私を追い詰める事件が起きたのだった。
『三月十七日(水)同じクラスの竹島が自殺したらしい。ミスイに終わったようで、死んではいないということ。原因は、志望する大学に落ちたこと、らしい。
ぼくは竹島の行為を悲しむことができなかった。これが他のやつだったら、ぼくみたいに内心悩みを抱えて苦しんでいたやつがいたことを喜び、そして同情しただろう。
でも竹島はぼくが好きだった三島彩と付き合っていたのだ。ぼくは三島のことを思い、何度オナニーしただろう。それをあいつは、じかに触れ、もしかしたらキスや、それ以上のことだってしていたかもしれない。しかもあいつは頭が良かった。
ぼくにしてみれば、夢も希望もない、頭も良くないぼくにしてみれば、はっきり言って天上人だった。有名大学とか女とか、そんなありきたりなものが欲しいわけじゃない、なんて強がっていたぼくだけれど、内心うらやんでいた。
竹島はぼくよりダンゼン価値のある人生を送っていたのだ。受験に失敗したといっても、それは第一志望に合格しなかったというだけで、滑り止めには受かっていた。
そしてその滑り止めは、ぼくが落ちた国立大学だったのだ! ぼくの手に届かなかった大学が、アイツにとっては滑り止めにしか過ぎなかったわけだ……。
なのにぼくより価値のある人生を、竹島は自殺という手法を使って否定しようとした。ならば竹島以下の人生の持ち主であるぼくのそれは、どうなる? 当然竹島からすれば、もっと無価値な、とっくに死ぬに値する無駄な生存でしかない、ということ。