第一章
5 私の挑戦
それは今だって、真剣に生きている。金を稼ぐため、これから結婚し家庭を維持していくために。
しかしその真剣さとは違う、いかに愚劣な生活、チンケな思想であっても、実益を伴わないことに関して、あの時ほど真剣に、夢中に、悩み、考えたことはなかった。
『自分にしかできない何か』を追い求めていた時はなかった。
私が失ってしまった生活が、そこにはあった。
それを見せつけられると、なぜだか、オレはエラかったなあ、とつぶやきたくなってしまうのだ。馬鹿も突き詰めれば大したものだ、という具合で。
日記を途中まで読んだところで、私はルーズリーフを閉じた。いつまでも読んでいたら片付けものが終わらない。とりあえず捨てないこととして、日記帳を紙袋に戻したのである。
次に私が過去の日記に手を伸ばしたのは、それからおよそ三年後、子供もできて手狭になってきたアパートを引き払い、マイホームに引越しする際の荷物整理をしている時のことだ。
新居に持っていくか、もういい加減捨てた方がいいか、と考えながら日記帳をパラパラめくっていると、やはり引き込まれ、以前中断した箇所から読み始めてしまう。
そして以前と同じように、オレはアホか!と思いつつも、エラかったなあ、という感慨が漏れ出てくる。