殺将・ダイナゾール
「なにか」の名称を、ここではダイナゾールと呼ぶことにしよう。
ダイナゾールは、魔王軍四天王の1人であった。
殺将ダイナゾール。
グラストとミウロスが敗れ、四天王が残り2人となったことを、ダイナゾールは理解していた。
しかし、どうでも良かった。
仲間のことなど、ダイナゾールはどうでも良かったのだ。
魔王への忠誠は皆無と言っていい。
ダイナゾールが求めているのは、己の魂が揺さぶられるほどの、手に汗握る強者との戦い。
たったひとつ、それだけである。
四天王になったのも、まだ見ぬ強者と出会えるかもしれないといった、自己中心的な理由からだった。
そして、確信していた。
『勇者は強い。』と。
心と心が、力と力が、己のすべてをかけた熱い戦いができることを、ダイナゾールはずっと前から信じていたのである。
勇者と戦い、その末に、己の命が果てようとも本望であった。
シンvs.ダイナゾール
ピキッ
ダイナゾールの爪に罅(ひび)が入った。
突進力の勢いが弱まり、押していたはずの慣性が抑え込まれていく。
『変わった。』
標的の気配になんらかの変化が起こったことを、ダイナゾールは気がついていた。
「・・・・・・・・・・・・」
不敵な笑みを浮かべたシンは、足が地面に食い込むほど踏ん張り、ダイナゾールの爪を砕こうとする。
ヒュッ
このまま大人しく砕かせると思うか?
そんなことを言っているかのように、空気を貫通する速度で、ダイナゾールはもう片方の爪を、シンの頭部に目掛けて穿つ。
ガシッ
鷲掴みにしていた手を片方離して、ダイナゾールの追撃をシンは防いだ。
土壇場で潜在能力を開花させた故に、できた芸当である。
右手と左手、両方で爪を掴み、肉体強化魔法を最大限に解放する。
ピキピキピキピキッ
圧倒的な膂力に為す術もなく、罅割れが進んでいくのをダイナゾールは止められない。
ググググ
それに負けじと、砕かれる前に押し込もうと、ダイナゾールは持てる力を振り絞った。
『絶対に砕く。』
『絶対に砕かせない。』
意志と意志がぶつかり合い、生死をかけた力比べの幕が上がる。
バッキンパリン
勝負は意外にもあっさりついた。
金の破片が宙に舞い、自身の武器を喪失したダイナゾールは、ただただ相手の力量に感服していた。
悔恨の感情は微塵もなく、あるのはシンに対しての純粋な尊敬と、磨き上げた実力に対する賞賛だけである。
このまま後は「死」を待つだけ・・・・・・・・・。
『いや、まだだ。』
ダイナゾールは口を大きく開けると、尖った牙を剥き出しにして、噛み砕こうとシンに襲いかかった。
ボガァン
だが・・・・・・・その反撃は届かない。
未来予知とさえ呼べそうな速度と動きにより、顎を蹴り上げられ、ダイナゾールの胴体は無防備となる。
「攻撃してくるのはわかってた・・・・・・・まだ目が死んでなかったからな。」
ふてぶてしい笑顔を崩さず、シンはそう言うと・・・・・・・ありったけの拳で、最大の連撃を繰り出した。