「お母さん、今日はどこへ行くの」

舌足らずの調子で母に聞く私は、ワンピースの服を着せられていた。今思えば女の子が着る服だったが、あのころの私は何ら疑わず親のことを信じていたから、そのような恰好をさせられていたことを、ごく当たり前のこととして受け入れていた。

私と手をつなぎ、母は微笑みを浮かべている。私もまた母へ微笑み返した。そんな二人の様子から、私は、それへ続いて繰り広げられようとする夢の情景に意識を向けた。

母は私に「あなたに会わせなくてはならない、運命の人がいるのよ」と語り掛けてくる。

私はその時、ただ母へ微笑み返す。この仕草が何を意味したものか、当時の私にはまるで分からなかった。

母は見慣れないアパートの横に立ち止まった。母は私にアパートの前で待っているように言い、幼年の私はそこを動かなかった。

数十分。いや、もっとそうしていただろう。待ちくたびれた私が地面に石で絵を描いていると、草原のある方角から一人の女の子が歩いてくるのが見える。

先ほどの赤いスカートがよく似合う、つやのある黒い髪の、可愛らしい女の子である。私の姿を認めると、頬をぱっと赤らめてこちらの方へ駆け寄り聞いてきた。

「どこから来たの?」

あの子だ。

公園のブランコの所で泣いていた……あの女の子だ。