私を捉えた「感染小説」の意味
ステイホームが叫ばれ様々な行事が中止になっていくなかで、家で過ごす時間がたっぷりと転がり込んできた。2020年に国内で感染者が確認されてから3年が経過した。この間、新型コロナウイルス関連の小説が次々と出版されてきた。
この貴重な時間を利用して、『復活の日』小松左京、『隠されたパンデミック』岡田晴恵、『首都感染』高嶋哲夫など既刊の作品を皮切りに、新たに出版された作品を手あたり次第に読んでいった。
既刊の作品はインターネットを通じて手に入れることができた。いつの間にか80冊に近い本が積み上がった。
実は、私は経済小説のファンで2020年1月に幻冬舎から『経済小説の世界』という表題の単行本を出版した。この本のまえがきに「本書は経済小説を乱読してきた経験を踏まえ私自身の視点で、経済小説や経済小説作家を様々なジャンルに分けて紹介したものである」と記しているように、経済小説のデータベース的な内容である。
これに倣って、感染症を題材とした小説を紹介したガイドブック的な作品の出
版を思い至った。医療については全く素人で浅学非才の私がこのような出版に乗り出すなど荷が重すぎる思いがする。しかし、少しでも多くの方々が感染症を題材とした小説に興味を持ち大いに楽しんでいただくきっかけになれば望外の喜びである。
外国では、『デカメロン』ポッカチオ(1348年)、『ペストの記憶』ダニエル・デフォー(1722年)、『ペスト』アルベール・カミュ(1947年)、『ザ・スタンド』スティーブン・キング(2004年)など数々の優れた話題性に富んだ感染小説が過去から現代にかけて出版されている。
興味の種は尽きないが、本書では日本の作家に限定して解説を進めていきたいと思う。
I 私が読んできた「感染小説」たち
『復活の日』/小松左京/角川文庫
『H5N1』/岡田晴恵/幻冬舎文庫
『隠されたパンデミック』/岡田晴恵/幻冬舎文庫
『首都感染』/高嶋哲夫/講談社文庫
『ナニワ・モンスター』/海堂 尊/新潮文庫
『スカラムーシュ・ムーン』/海堂 尊/新潮文庫
『コロナ黙示録』/海堂 尊/宝島社
『エピデミック』/川端裕人/集英社文庫
『サリエルの命題』/楡 周平/講談社
『夏の災厄』/篠田節子/角川文庫
『破船』/吉村 昭/新潮文庫『災厄』/周木 律/角川文庫
『臆病な都市』/砂川文次/講談社『火定』/澤田瞳子/PHP文芸文庫
『安政くだ狐・首斬り浅右衛門人情控』/千野隆司/祥伝社文庫
『黒い春』/山田宗樹/幻冬舎文庫
『時限感染』/岩木一麻/宝島社
『感染列島パンデミック・イブ』/吉村達也/小学館
『封鎖』/仙川 環/徳間文庫
『感染シンドローム』/初瀬 礼/双葉文庫『デビルズチョイス』/初瀬 礼/双葉文庫
『BABEL・バベル』/福田和代/文春文庫
『赤い砂』/伊岡 瞬/文春文庫
『月の落とし子』/穂波 了/早川書房
『生存者ゼロ』/安生 正/宝島社文庫
『レッドリスト』/安生 正/幻冬舎文庫『ザ・パンデミック』/濱 嘉之/講談社文庫
『キャプテンサンダーボルト』/伊坂幸太郎・阿部和重/新潮文庫
『感染列島』/涌井 学/小学館文庫
『感染捜査』/吉川英梨/光文社
『ただいま、お酒は出せません!』/長月天音/集英社
『感染源』/仙川 環/PHP文芸文庫
【前回の記事を読む】日本で新型コロナウイルスによる感染者が初めて確認されてから現在に至るまでの流れ