「子供の頃、この辺の砂浜にママと一緒に座って、よく江の島の花火大会を見ていたのよ。ママの作ってくれた小さなおむすびを食べながらね。とても楽しかったわ」
すると圭が言う。
「じゃ、その日は俺が何か作っておくことにするよ」それに玲子が小さく首を横に振る。
「圭、私がおいしい料理を作って持っていくから、一緒にそれを食べましょうよ」圭がからかうように聞く。
「玲子は料理ができるのかい?」
それを聞いて、玲子がちょっと怒ったような顔で返す。
「料理は得意よ。ママが亡くなってから、パパに食事を作ってあげていたし、今でも料理はよく作っているから楽しみにしていて。ところで、最近は千佳ちゃんに会っていないの?」返事が返ってくる。
「千佳はこのところ就活でとても忙しいようだよ。あいつも大学三年生だろう。週末はいつも企業回りで大変だと言っていたよ」
そう言って圭は立ち上がり、玲子と手をつないでまた海の中に入っていった。
花火大会の日、玲子が手作りの料理を入れた重箱を持ってやってくる。玄関のドアを開けてやると、重箱を持って立っている玲子がいる。
「玲子、手料理をありがとう。その重箱はリビングのテーブルの上に置いてくれる?」
カーテンが開けられているリビングの大きな窓からは、外のベランダにテーブルと椅子が二つ置かれているのが見える。圭がワインとビールを持ってくる。
「この地ビールは、今日のために手に入れておいた湘南ビールだよ。車で来たからアルコールは駄目なのかな?」
玲子が「今日はタクシーで帰るから大丈夫よ」とこたえる。
二人はソファに仲良く座り、まず地ビールで乾杯をする。
圭が重箱の蓋を嬉しそうに取る。
「玲子が作ってくれた料理、とても美味そうだな。いただきます」
箸でまず豚の角煮を小皿に取って一口で口に入れ、ワインを飲む。
「この豚の角煮は上品な味付けでワインにもよく合う。この小さな俵形のおむすびも美味そうだな」
その俵形のおむすびも一口で口の中に入れると、リビングの窓からは、「ヒュルヒュル、ヒュルヒュル」と音を立て、花火が夜空に上がっていくのが見える。
夜空に大輪の花火が輝き、少し遅れて「ドーン、ドーン」と大きな音が響き渡る。それを合図にしたかのように、連続して色とりどりの花火が夜空に輝き出す。圭は地ビールの瓶を手に持ったまま、外のベランダの椅子に座る。
玲子も重箱を外のテーブルまで運び、隣の椅子に座って花火を見る。
「すごく綺麗な花火だわ。この暑い時期の花火をこの特等席に座り、圭と二人で見るのは最高ね。江の島のシーキャンドルも遠くに見えて光っているし、とても素敵だわ」
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