彼は痩せてはいるが、背が高いし、骨格が張っている。しっかり立てない男性を、一人でトイレに連れて行くのは、自分も倒れそうになり、かなり大変だった。又手も洗うという動作が分からなくなっていて、手を拭く事も分からず、その辺りのカレンダーで拭こうとする様な状態であった。

すべて私がやってあげないと分からない。その様な状態を見て、慌てて大学病院で診察を受ける事になった。するとやはりと言う感じで、腫瘍が一気に広がっていたのだ。もう助からないのか、そう思った。

担当医の先生からは、「もうこんなに広がっていたら助けようがないです」と言われたのだ。もうショックで今まで我慢をして来た涙が、一気に滝の様に溢れ出た。「こんな状態でも何とか助かる方法がないものか」と思ったのだ。

その後大学病院から紹介状をもらい、脳外科医のトップであると言われている先生の所に、画像を持って数か所、セカンドオピニオンとして会いに行ったのだ。すべて有名な先生ばかりで、どの先生も画像を診てしっかりと説明をしてくれた。しかしどの先生方にも、結局同じ事を言われたのだった。

「ご主人の場合は腫瘍ができた所も悪いし、こんなに広がってしまったらもう助けようがないです」と。

又どの先生方にも「あとどの位生きられるのでしょうか?」と聞いた。するとどの先生も「あともって二、三か月です」と。「でももう少し早いかもしれません」と言われたのだ。

ある先生は涙ぐみながらそう答えてくれたのだ。私には有名な先生であっても、この時ばかりは悪魔の様に感じたものだ。

本を書いたり、ネットに出ていたり、どの方も有名な先生方ばかりで、その様な先生が画像を診てそう診断するのであれば、「もう諦めるしかないのだろうか」そう思った。

一筋の希望も消えた。彼に待っているのは、もう【死】しかないのか。絶望の中、病院から戻って来たのを、今でも鮮明に覚えている。

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