第一章 再起
旅先での買い物は、二人にとって驚き一杯の楽しい思い出となった。上海での買い物は、外国人と中国人で価格が違っていた。商品を中国人価格の二十倍以上で外国人に売りつける商売人もいて、仁は常に丽萍(リーピン)に値段を確認してから、商品を買った。
買わない素振りを見せると店員から、半値にしたり、十分の一程度での購入を懇願してくることも多く、元の価格が全く分からない物も多々あった。
更に店員の中国人への接客態度と外国人に対する態度が、露骨に違うことは、あまりにも驚きだった、人前で決して笑わない上海人が外国人に笑顔で接客している姿は滑稽でもあった。貨幣価値の差が人間の価値の差のように思われて、不愉快だった。
中国国内の観光地では同じような土産品が多い。酒、茶葉、茶器、水晶、チャイナドレス(特に子供用)にハンドメイドのキーホルダー等はどこにでも同じ物が大量に出回っているが、価格差は大きい。
北京、上海の観光地では、他の二倍以上の価格で販売されているようで、ブランド品の専門ショップも、偽物が横行している。高級品は購入意欲自体成就できない状態となっている。
丽萍(リーピン)は仁からの土産について、高級化粧品を所望した。同じブランドが中国国内に販売されていても、水が違うとか、中国人が信用できないとか、ブランドショップ自体が本物か、偽物を売っていないと保証できないとかの理由で、化粧品を中国で購入することを拒んだ。
旅にはサプライズが付きものだ。冬の天津や大連では、高層ビルの横を歩くのは禁物だ。太陽が昇るのに合わせて暖かくなると、氷の塊がまるでガラス片のように結構な頻度で落下してくる。
死人や怪我人がきっと出ていると思うのだが、不思議なことにニュースや噂で聞いたことは一度もない。仕事中はアテンドしてくれる中国人や駐在員が気を使ってくれるが、休日のバカンス中に丽萍(リーピン)の肩に破片が落ちてきたこともあった。
彼女は「仁が買ってくれた日本製のコートは丈夫なので問題ないわ」と気にしていないようだが、人に優しくない街作りはいずれ弊害が出てくるだろう。