千恵姉ちゃんも、去年みたいにしょっちゅう僕たちの部屋に来て話しかけたり、何かを買ってきて机の上に置いたりしなくなった。僕たちはお母さんとお父さんのことを忘れてしまったわけではなくて、いないことに慣れてきたんだ。

夏休みが残り少なくなって、千恵姉ちゃんたちの仕事が始まり、お祖父ちゃんもお店を再開し、僕は毎日トランペットの音出しと『北の国から』の練習をした。そうして千恵姉ちゃんたちと過ごした二回目の夏休みが終わった。

家 族

一緒に暮らし始めてから一年以上が経ったけど、十二月の僕の誕生日と五月の由美の誕生日は千恵姉ちゃんがプレゼントをくれただけで、誕生会はやらなかった。僕たちを誕生させてくれたお父さんとお母さんが死んじゃって一年も経っていなかったから当たり前だ。

この家族でちゃんとやる誕生会は初めてだ。

お祖父ちゃんが昼過ぎに「店の売れ残りだ」と言いながら大きなお皿にお刺身の盛り合わせを作って持ってきた。

おばあちゃんのリハビリが終わってから、お祖父ちゃんはずいぶん元気になった。でも昭二兄ちゃんは「オヤジは老けた」と何度も言ってた。

僕たちのお父さんはお祖父ちゃんの長男だ。長男が死んじゃったんだからお祖父ちゃんだってがっくりしちゃったんだ。

千恵姉ちゃんとおばあちゃんでちらし寿司(ずし)を作り、昭二兄ちゃんがケーキとフライドチキンと飲み物を買ってきた。由美は、お姉ちゃんとおばあちゃんの間を動き回って邪魔してんだか手伝ってんだかわからない。

僕は掃除機をかけたり、テーブルを拭いたり、小皿を出すような手伝いだけど、これまで気を遣われて元気づけてもらうばかりだったから手伝うことが全然嫌じゃなかった。

みんながテーブルに着き、ハッピーバースデーをお祖父ちゃんと千恵姉ちゃんの分と二回歌った。お祖父ちゃんがご機嫌で乾杯をしようとしたら、ケーキのろうそくを消すのが先だと由美が言い張って、これもお祖父ちゃんが吹き消したあと、もう一回火をつけてお姉ちゃんが吹き消した。

ろうそくをつけ直して千恵姉ちゃんが吹き消したときには大笑いしながらで、お姉ちゃんはなかなか口をとがらせることができなかった。

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