田辺の話からは、確かに大きな矛盾点は感じられないようにも思えた。ただ、いくら頼まれたからといって、死亡時に6000万円もの大金がおりる保険に普通入るだろうか? それだけの保険であれば、掛け金は一体いくらになるというのか。

次に鍛冶内は、問題の本丸である例の疑惑について、田辺に率直に聞いてみることにした。つまり、乙音と汐里とが本当は現在入れ替わっていて、湯船で亡くなっていたほうが実は乙音だったのではないかという疑念である。

「それに関しては………」

少し話しづらそうに田辺は言葉を取り出した。

「正直、何も調べていません。最初から湯船にいたのが汐里さんだというご家族の話を信じていましたので」

「では当然、ほくろの有無も見ていない訳だ」

「いえ、乙音さんに言われて、汐里さんの唇の右下を見ました。自分が黙視した限りでは、

乙音さんの唇下にあるほくろと同じものを、汐里さんの同じ位置からは確認できませんでした」

やはり亡くなった娘にほくろはなかった。鍛冶内は少しだけ険しい顔つきをした。

「僕は聞いたことがあるけど、双子だとDNAは同じでも、指紋は違うらしいよね?」

「はぁ」

「指紋を調べて、今いるのが本当に乙音なのか、これからでも確認してもらうことはできないもんだろうか?」

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