お母さんは「はいはい」と答えた。
「日向子、この本?」
「あっ、そうそう。ママありがとう。私、お父さんの部屋にあった本、これ好きなの」
「たしかに、綺麗な景色がいっぱい出てるもんね。日向子は好きなの?」
「うん、これって世界の?」
「うん、そうね。ママも知らない遠い国かな。絶景の世界って書いてあるでしょ。すごく綺麗な場所があるのね、世界のどこかには」
「ママ」
「ん?」
「私は行けるようになる?」
「えっ、それは……。病気を治して大きくなれば行けるかもね」
「なおる?」
「ええ。治るわよ」
「クジラさんと一緒に行きたいな」
「いいわね、日向子……。鯨と行くのはどうして?」
「私が病気でも連れてってくれそうだから。遠くても」
「そうね……」
おばあちゃんに日向子さんのことを詳しくは聞かなかった。
お母さんでさえも。もちろんお父さんも。お兄ちゃんは分かっているんだかどうだか、知らない。
おばあちゃんとこの家の思い出を作る。
とても寂しい気持で埋まってしまうようなこのテーマがこの旅にはある。
私はそれを噛みしめていた。
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