中村さんは1997年5月、91歳で亡くなられた。「生涯現役」である。国内や海外に100数10棟の建築を施工された。松下幸之助には数々の茶室を依頼された。世界の財閥ロックフェラー邸の住宅や茶室を建てた人でもある。
「建築とは、施主の運命を延ばすこと、大工の根本は施主の力と好みをつかむことである。いい建築を残して、顧客に喜んでもらう、顧客の運命が上がるような家を建築する」
中村さんの考え方である。中村さんのしごと哲学は次の通りである。
①材料である木の性質をよく知り、それを生かすことを考える。今まで厳選して集めた木をどう生かすかから建築は始まる。いい木はわずかしかない。森林を自ら歩いて選ぶ。倉庫には全国から集めた立派な木が一杯あった。
木は10年~20年乾燥させて寝かさないと立派な建築はできない。一尺の木片でも粗末にはせず生かすことを考える。「立派な木は一枚でも小さな家が建つほどの金額であるが何十年の歴史を持っており高いものではない」というのが中村さんの材料に対する考え方である。
②木は一本一本に表情があり、個性を持っている。その個性を殺さず、どう建築の中に生かしてやるかが大工のしごとである。職人もいろいろな人がいる。
「頭の悪い人もいる。頭の悪い人には悪いなりに、どこかに何か特徴を持っている。それを一つでも見つけてやって世の中を渡っていけるようにしてやる」
中村さんの弟子に対する考え方である。
③台風を経験した人としない人では、今後の成長がまったく違う。台風が来たといって現場から離れるような人はダメだ。大切なのは、現場で経験を積んで勉強することだ。親方のいう通りしかやらない人には成長はない。人から教えられただけでは身につかないし、本を読んだだけでも身につかない。
自分で苦労して失敗を積みながら大きくなっていくのである。真剣に自分の人生をかけるような心構えで物事をやっていれば、何をやっても通用するし、どんな場面でもやっていけるようになる。それだけ真剣な気持ちであれば、顧客を感動させるし、やることが人と違うようになる。
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