第1章:糖尿病の病態・疫学
1. あなたのカラダは縄文人!?
M: 今から25年くらい前に、アルプスの氷河から1体のミイラが発見されました。研究者によってミスターアイスマンと名付けられたこのミイラは約5000年前の45歳の男性。痩せていて、虫歯が1本もなく、動脈硬化が大変少なかったそうです。
A: 45歳で虫歯ゼロ! 私、何本も虫歯があります(涙)。40代だと動脈硬化がある程度ありそうな気がしますが、5000年前の人はあまりないのですね。
M: 実は私も現在45歳なのですが、同世代では虫歯で通院中の人も多く、中にはすでに動脈硬化が進んで心筋梗塞になった人もいます。
A: 同じ45歳であっても、5000年前の人と現代人はだいぶ違いますね!
M: 私たちの祖先は何百万年もの間、飢餓と戦っていました。そのため私たちの体は飢餓に打ち勝つための生体システムを備えています。しかし現代は美味しいものを好きなだけ食べ放題。私が研修医であった20年前、恩師の鹿児島大学医歯学総合研究科血管代謝病態解析学丸山征郎前教授から、現代人は「背広を着た縄文人」なのだと教わりました。
A: 背広って今はあまり使わない言葉ですが、おじいちゃんがスーツのことを背広って呼んでいました。スーツを着た縄文人?? どういうことでしょう?
M: 確かに今は背広って言いませんね(ジェネレーションギャップ……涙)。スーツを着て現代的な生活をする私たちと、空腹や過酷な労働と戦っていた縄文人では、生活様式が全く異なるにもかかわらず、生体システムはほとんど同じらしいのです。
A: 現代人と1万年くらい前の人だと、体の仕組みもずいぶん違う感じがしますが……。
M: 丸山先生がおっしゃるには、ヒトの遺伝子が1つ進化するためには5000年から1万年くらいかかるため、現代人と縄文人の体は大差がないのだそうです。私たちの体は、飢餓に打ち勝つ生体システムを備えた縄文人の体と同じなのに、スーツを着てハンバーガーを食べながら車で移動し、夜は居酒屋で1杯という快適生活。そりゃ病気が増えるよね~という話です。
A: とても分かりやすいです! 体は縄文人なのに、食べ放題の快適生活。確かに糖尿病など色々な病気が増えてもおかしくありません。
M: 「背広を着た縄文人」という言葉は言い得て妙なので、講演でもよく紹介しています。人類が誕生して400万年、食べ放題が50年と仮定し、この時間関係を1年間に換算すると、食べ放題の時間は1年の中でわずか6分ということになります。
A: 年越しぎりぎりまで腹ペコ、残り6分が食べ放題。6分だと体は食べ放題に適応できませんよね! そりゃ糖尿病になる人が増えるはずです。
M: あきさんの言うとおり、「飢餓に打ち勝つ体のシステム」と「快適な生活環境」のミスマッチが、糖尿病の発症に大きく関わっているんです。糖尿病はミスマッチ病といえるかもしれません。
A: 私の体は縄文時代の人とあまり変わっていないのか~。大好物のスイーツを毎日食べないよう注意しないといけないな……。