九条美雪の高校生活三年間の中で、相田千鶴という人物は、最終学年の十一月から、いわば最終章から登場した存在だった。形式上は高校二年から同じクラスだったため、些細な会話を含めれば関係性は中盤から始まっていたが、親密性を深めたのはその頃からだった。

家の事情と伝統に伴い、初等部からエスカレーター式に女子校での生活を営んでいた九条にとって、高等部から現れた千鶴は、自分と交わるにしては最底辺の人間であると彼女は考えていた。

事実、校内という狭い世界ではどこからこの女子校に参入したかでグループや派閥が決まっており、通常で言えばふたりは卒業まで仲を深めることはなく、そこから巣立てば以降の人生での関わりは絶たれるはずだった。

縁のはっきりとした黒目と、刺繍糸のように柔らかいロングヘア、平均より少し低数値の身長と体重を持った千鶴は、異性にとって魅力的な要素を兼ね備えていた。

そのため、年に一回開かれる文化祭に訪れる、他校の男子学生から彼女はたびたび声を掛けられており、高等学部二年生のときには、風の噂で彼女には年上の彼氏がいるという情報が、九条の耳にも入ってきた。

女子校という、閉鎖的でありつつも異性の興味に敏感な人々が集う場所において、千鶴は憧れと嫉妬を集めるには十分な人物だった。

九条と千鶴の関係性が変わったのは、高等部最後の文化祭だった。

千鶴の元恋人と名乗る男子大学生が、威圧的な態度で千鶴のクラスに現れ、それを察知した途端逃げるように教室から遠く離れた女子トイレまで走る彼女を、九条が追いかけたことが始まりだった。

「大丈夫?」

女子トイレの洗面台の前でうなだれる千鶴に、九条は強いトーンで声を掛けた。

「あの人、元彼?」

大した会話も交わしたことのないクラスメイトに、核心と痛みを突かれたことに驚いたのか、千鶴は声にならない動揺を露わにした。

「そう、そうなの。もう別れてるはずなんだけど、今日急に来て、怖くて」

千鶴の今にも泣き出しそうな表情を見とめた九条は冷静な声色で、先生に言いに行こう。と彼女に提案した。それを聞いた瞬間、千鶴は一筋の涙を流し、九条さんありがとう。と、つぶやいた。

ふたりの交友関係は、その日を境に自然と色濃くなっていった。

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