それから何か月か経って、ハナの世話をしている吉田さんが、

「どうも、今夜ですよ」

と言ってきました。おじいさんは、

「予定日が来たと思っていたところだった」

と急いで馬屋へ行きました。馬屋の入口には稲わらで編んだむしろが何枚も吊り下げてありました。

「何してるの?」

と純二が尋ねると、おじいさんは、

「静かにしなさい。もうすぐ産まれるぞ。落ち着いてお産ができるように、暗くしてあげるのだよ」

とおじいさんが小さい声で説明してくれました。純二は牛の赤ちゃんのことはすっかり忘れていました。なぜなら、これまでと変わらずにおじいさんと田んぼで働いていましたし、田んぼに行かない日は、散歩をしていたからです。ハナのお腹は普段からとっても大きいので、赤ちゃんがお腹に入っているどうか分かりませんでした。おばあさんも何かそわそわして、

「お風呂が沸いているよ」

と落ち着かない様子で言いました。そこで、純二は風呂に入って寝ました。翌朝、おじいさんに会うと、

「夕べ遅くなってから、仔牛が産まれたよ。雌だったよ」

と嬉しそうに教えてくれました。雌の仔牛は市場に出すと高く買ってもらえるのです。それからしばらくの間、ハナがつながれている庭では仔牛がハナの近くを跳ね回っていました。時々おっぱいを飲んで、また走り回って遊んでいます。純二が近づくと興味ありそうに寄ってきては、走って逃げていきます。ハナは大きな目で様子をじっと見ているのでした。

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