出産
あるとき、吉田さんが、
「ハナが発情したみたいですわ」
とおじいさんに報告しました。おじいさんは
「昨晩はハナがよく鳴いていた。やはりそうか。じゃー、獣医さんに電話して種付けに来てもらうよ」
と言って、早速電話機に向かってダイヤルを回し始めました。
次の日に、オートバイにカバンを積んだ獣医さんがやって来ました。時候の挨拶をして、まず縁側でお茶を飲みながら、カバンからプラスチックの棒の束を取り出しました。束ねた輪ゴムを外しながら、
「精液はこれにしましょう」
と言って1本の棒を取り出しました。馬屋の前の庭には、はで木で枠が作られています。吉田さんがハナを枠の中につなぎました。獣医さんが、純二に向かって、
「あんたも、見ときなーか」
とやさしい顔をして言いました。純二は、
「うん、いいですか」
と返事をしました。獣医さんは聞こえたのかどうか、ピカピカ輝いている金属の器具を用意していました。使用人の吉田さんはハナの背中を押さえています。獣医さんは先ほど選んだプラスチックの棒を器具の先にセットして、慎重に注入しました。
「はい、終わりました」
と獣医さんはニコニコと笑顔をしていました。