「その人の容体は?」

「予断を許さん状況や」

「ええ。ありがとうございます」

「君らも匂いでとっくに気が付いとるやろうけど、ここには燃焼促進剤か何かが撒(ま)かれとるようや。こっちはこれから調査していくけ、そっちに連絡が後から行くやろう。じゃあまた」

その様子を見ていた消防士はにいと犬歯を出した。どう考えても威嚇している顔に見えるが笑っているのだろう。藤堂は愛想のない笑みを返す。消防士の男は固そうな唇を結んだまま去っていった。

まだ消防の作業は終わりそうにない。藤堂も他の刑事たちのようにとりあえず周辺の調査を始めた。まず通報者から話を聞き始める。

通報者の男は藤堂の前で怯えたように話し始めた。

「僕はいつも通り仕事に行くから家を出たんです。すると前方の家が赤く光ったんです。初めはそういうライトなのかなと思ったんですけどおかしいなと思って。近くにいた他の人も集まってきて、同じように首を傾げているんです。そしたら家の中から人が、火だるまの人が飛び出してきて。怖くなって固まっていたら、誰かが通報って叫んで。それで慌てて通報しました」

「それは、大変でしたね」

「ええ、火だるまになった人に他の人たちが消火器を向けて火を消そうとしていました」

トラウマになりそうな状況だ。震えも納得できる。

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