八年前には戦争にまでなった。

もっとも西隣とは、フルグナになってから関係が悪くなったわけではなく、サントネスや、その前の王朝のときから攻めたり攻められたり、領土を取ったり取られたりしていた。もちろん争ってばかりでもなく、友好的なときもあった。国境を接する国同士の関係なんて、そんなものなんだろう。

でもこれまでは、戦争に負けても多少国境線が変わったり、賠償金を払うぐらいですんだが、フルグナは雉斉を丸ごと呑み込もうとしているらしい。

それはいやだなと思った。外国人に解放してやるとか言われても、よけいなお世話である。雉斉の国は、雉斉人でよくしていかないと。それにフルグナでは革命のとき、旧体制や反対派に限らず、多くの人が殺されたと聞く。

それも、ひどくむごたらしいやり方で。同胞にさえそのようなことをするのだから、雉斉人はなにをされるかわからない。インテリの中には、雉斉も全統主義の国になれば、もうフルグナと戦争することもない、などと言っている人もいたが……。

未来は雲に遮られて、まったく見えなかった。これから雲はますます厚くなって雨が降り出すのか、それとも強い風が吹いて青空が広がるのかは、わからなかった。

第二章 偽りの告発

落雷事故から一ヵ月後、わたしは焼失した縫製第三工場の跡地を訪ねた。霧坂敬明(たかあき)が一緒に来てくれた。敬明は霧坂家の長男で、わたしたちは四歳のとき一度会っているのだが、二人とも記憶はなかった。

しかし、敬明とはおばさんの家で「再会」して、すぐに親しくなった。彼は父親によく似た、意志の強そうな顔立ちと屈強な体格をしていたが、おばさんのほがらかさ、親しみやすさも受け継いでいた。

敬明によると、彼も母親から「夏峰さんち」について、いろいろ聞かされていたという。工場の跡地は、せつなくなるほど狭かった。こんなに狭い土地で、あれだけの人たちが働いていたのだ。

【前回の記事を読む】隣国で起こった革命。皆が豊かに、平等に暮らせる国になったというが…。

次回更新は4月6日、11時の予定です。

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