父は、伯母の死後、元気にならない妻に苛立ち、死にたがる妻に一日八時間の説教をしたそうだ。もうどうにもならなかった。プールで一日何キロも軽く泳いでいたラッコみたいな体だった母が小さな痩せたヤギになっていた。もう、このオオカミ親父に食われる日も近い。そんな危険を感じ、母と地元の警察署に相談に行った。

警察では「生活安全課」(生活、安全か? なのね)の方が親切に対応してくれ、その後、家庭訪問に来てくれて母にこう言った、「奥さん、これはDVという立派な犯罪です。あなたはその家庭内暴力の被害者です。事件が起きる前に逃げてください」。

二年前、私が警察で全く同じことを言われたことを思い出した。警察の方からシェルターの話が出た。家庭訪問は母をシェルターに避難させるためだった。

母は自分の状況が理解できず、「だいじょうぶです、放っておいてください」と警察の支援を断った。そして、警察の支援は不要という念書も書いた。

しかし父の母への口撃は止むことはなく、母は命の限界まで痩せた。死にたがっていたはずの母が、本当に死んでしまうと恐怖を訴えてきた。もう、夫の顔を見るだけで怖い。

父の外出中に母を連れ出した。私の家だと父が来てしまうかもしれない。安全な場所に移さなければならない。警察と地域包括ケアセンターを通じ精神科の病院を紹介され、検査も兼ねて一時入院。母にとって精神科病棟入院は地獄の日々だったろう。それでも父といるよりは良かったらしい。

母の精神科入院を父に告げると父は大人しくなった。精神科は、彼にとって想像もつかない病気らしく、足を踏み入れられない怖い場所だったらしい。やっと安全になった。けれど母は孤独だった。

栄華を極めてきた女性のあまりにも酷い末路。「うつ」ではないし、治療の必要もないと医師に言われた。では、どうする?

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