第三章 ぽんこつ放浪記
5.人生の転機
夫のわがままを聞きすぎた
私と夫は、お互いよく知る関係、私にとっては弟のような存在だった。そんな安心感もあって結婚した。さらに、お互いバツイチ(離婚歴一回、戸籍上前科ありというやつ)、離婚のつらさがわかる、傷をなめあう関係とでもいうか、何でも話せる関係だと思っていた。
ただ、交際してみると夫は時間にかなりルーズだった。デートは毎回遅刻、結婚式にさえ遅刻した。約束を破ることも多かった。遠距離恋愛だったのをいいことに、私と会えない時間に他の女性とデートもしていた。貯金はほぼゼロ。
しかし、そんな子どもっぽいところも含めて、友人関係のまま夫婦になれたらいいと思っていた。そして、早くに両親を亡くした彼に家族を作ってあげたかった。
夫は海が見えない札幌が好きではなかった(じゃあ、なんで来た!)。北海道とはいえ、札幌は都会だ。その都心に一軒家を購入するなど余程お金がなければ厳しい。
しかし、夫は「マンション住まいが嫌だ」と言った。自分が落ち着かないのはそのせいだ、地に足がついている気がしないからだと。マンションだからそりゃそうだ。けれど、私は夫のワガママを聞き、必死で夫の会社近くの一軒家の物件を探した。
家族やり直しができるならと祈る気持ちだった。そして、都心に庭付きのスタイリッシュな一軒家を見つけた。思い切った買い物だった。夫婦関係立て直しの「最後の賭け」をして、これで落ち着くことを祈った。
祈りも空しく、夫の暴力はエスカレートし、もう夫婦喧嘩の域を超えた。自分の言うことをきかない次男を力で抑えつけ、「もう、やめて」と叫ぶ私と子どもたちに、夫は「なんだ、その目は!」と睨んだ。
私たちの目前で果物やペットボトルが、力の限り床に叩きつけられた。リンゴは3ミリ角になって飛び散った。恐怖の暴力映像だ。夫から逃げなければならない。離婚を決意した。生き延びて子どもたちの安全を守らなければ。
自分さえ我慢していれば、離婚しないですんだのではないかと自分を責めたこともたびたびだった。周囲が認めた結婚、同級生にも祝福された結婚。共働きで共同して子育てをする理想的な夫婦。「幸せを絵にかいたような家族」は、一瞬で壊れた。