第三章 ぽんこつ放浪記
6.DVとは何なのか:DV原型の末路~父と母・夫婦に下された裁き
母の家出未遂
姉を亡くして妹の母は急に弱った。それまで一人で外国旅行もする活動的な人だったのに。いきなり父の支配から逃げられなくなった。ゴルフと飲み屋と愛人宅に入りびたりで、家に帰らなかった父。
愛人を亡くし、女たちを乗せて回った車を手放し、「これからは妻と二人で生きていきたい」などと殊勝なことを娘の私に宣言した。私もどこかこれで夫婦の「老後」を暮らしていけるのかと思った。甘かった。弱った妻を励まそうと思ったか、父はこれまでしたことがない茶碗洗いや買い物をするようになった。だが、その父からひっきりなしに相談と苦情の電話が来るようになった。
「どうしたらいいかわからない、なんとかして」
そのたびに実家に行き父母と話した。どうやら今度こそ父は母と向き合おうとしていると信じたかった。八十歳過ぎた夫婦にもやり直しができるのなら見てみたい。そんな気持ちで応援していたが破綻の日は早く来た。
ある夜、「お母さんが一人で出て行ってしまった」と父から電話。夜十時に老婆が一人で散歩などあるか、私は祖母を心配する子どもたちも乗せて慌てて車で駆けつけた。
警察に捜索を依頼した。一時間以上経つのに帰ってこない、何かあったかもしれない、大変なことになったと思った。それは直感ではなかったから。
父が母に「一緒に死のう」と包丁を手に迫ったという。何でそんなことになった? 脅迫殺人未遂じゃないか。一緒に生きるって三日前に言ったよね。
父は「そうしたら散歩に行ってくるって出かけたのさ~」、妻が出ていく様子を見届け後も追わなかった。母は無事戻った。父はとっくに寝ていた。「来なくても良かったのに」と母はけろっとした調子で私たちに言った。何言ってんの?
母の孤独
伯母の死で母の心も死んでしまった。もう夫との老後などあり得なかった。一緒に過ごしてきての「老後」だ。浮気夫が今さら改心したところで遅かった。夫婦の時間は完全にずれていた。伯母の死がそれを浮き彫りにした。