この本を書いた理由
これから私がお話ししたいことは、抗がん剤は効果がないから受けない方がいいとか、抗がん剤はできるだけ頑張って受けるべきだなどということではありません。
今、がん治療に関する本は書店の健康関連書籍コーナーにあふれていますし、がん治療の情報も簡単にインターネットで得ることができます。その中には正しいものもありますが、間違っているものや悪徳商法まがいのものも多く見受けられます。
特に悪徳商法まがいのものは、患者さんやご家族の不安につけこんで高額なうえに効果のない治療を売りつけます。私の患者さんにも死の不安に飲み込まれて、間違ったがん治療の森に迷い込んでしまった方が少なからずいました。
大切な時を無駄な治療に費やしてしまうのは、患者さんとご家族だけでなく我々医療者にとっても残念なことです。患者さんとご家族の一番の希望は当然ながら“治ること”だと思います。それが難しいのであれば、次の希望はなんでしょうか。
患者さんとご家族に、そして今は健康に心配のない方も考えてみてほしいのです。これからの時間がかなり限られているとしたら、なにを大切にしたいのか。
2015年からの7年間で宮城県立がんセンター腫瘍内科に紹介され、私が担当した患者さんは927名でした。年間約130名の患者さんに抗がん剤治療のお話をしていることになります。中には、一度目の受診で抗がん剤治療は希望しなかったけれど、しばらくして抗がん剤治療を試してみたくなったと二度目の受診をした患者さんもいます。
私の説明が患者さんとご家族に受け入れてもらえたと感じることもあれば、不安をあおってしまっただけに終わったように思ったこともありました。このような経験の蓄積がこの本を書くきっかけになりました。患者さんとご家族に心から感謝します。医師は、患者さんとご家族によって成長するのです。
この本を手に取ることで、皆さんが抗がん剤治療について正しい知識を持ち、また一人ひとりの患者さんが充実した時をすごすための選択肢として抗がん剤治療を考えられるよう願っています。
この本は、実際に患者さんやご家族から受けることの多い質問に対して腫瘍内科医である私がお答えしていることをまとめたものです。中には、私が腫瘍内科医として今までにまとめたデータも含まれますが、できるだけ分かりやすくするために図と表を多く入れました。
また、各々の章の最後に、私がいつも思うことを「腫瘍内科医のつぶやき」としても付け足してみました。必要な部分のみお読みください。質問に対する答えは、一部重複することもありますが、ご容赦ください。
参考文献
1)独立行政法人医薬品医療機器総合機構(閲覧日:2023年5月1日)
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch
2)国立がん研究センター 国内で薬機法上未承認・適応外である医薬品について(閲覧日:2023年5月1日)
https://www.ncc.go.jp/jp/senshiniryo/iyakuhin/index.html
3)がん情報サービス・最新がん統計 がん種別 胃(閲覧日:2023年5月1日)
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancr/5_stomach.html#ancho