ガン患者支援イベントに参加したときには、彼女の回復を祈るメッセージを作り、火を灯した。

彼女のご主人は、彼女の病と余命数年もないことをわかっていて、彼女が逝く前に急いで結婚したのだと思うと、胸が張り裂けそうになる。

彼女を見舞うご主人は、良くなったら新婚旅行でハワイへ行こう、10周年ではペルーへナスカ平原を見に行こうと励まし続けたと後で聞いた。向き合うには若すぎる自分の運命を呪い、闘病の新婚生活を強いた神々を問い詰め、迫る死に怯えた夜が何度もあっただろう……。

「明日のわたしは誰かと言葉を交わすことができるのかしら」

「自分は何かを遺せるのだろうか」

そんな思いを持って今世の幕を閉じた一人の女性……享年26歳。

その知らせを聞いたときは、

「あなたはわたしの名前の意味に気が付いてくれますよね? あなたの人生にほんの少しでもわたしが現れた意味を? ナスカ、ペルーとハワイが繋がっていくことの意味を? わたしの人生を意味あるものにしてくれますよね……」という声が聞こえてきたような気がしてならなかった。

それからというもの、ハワイに来たときには必ずここのビーチへ足を運ぶようにした。なぜか忘れることなく思い出す、わたしなりの彼女への慰霊の旅でもあった。

ただはるか太平洋の先の南米、アンデス文明のナスカという名前を持つ女性の死が、どうしてここまで気になったのかは、わたしにはよくわからなかった。

 

波の先に見える二つの島が恋人同士のように並んでいる。そしてビーチの砂ひとつぶひとつぶが、ここに集まる魂を優しく包み込むように細やかに広がっている。

海は青い宝石のようにきらめいていた。そして降り注ぐ日差しがその輝きを引き立たせる……。

まだ幼い娘の亜美は浮き輪に身を任せ、無邪気な笑顔でその日差しと海を楽しんでいた。

静かに穏やかに繰り返す波の音は、太古から送り続けられていたメッセージに包まれているかのようだった。

このメッセージが、母親であるわたしではなく、娘の亜美に向けられたものであり、彼女が向き合うべき魂の持ち主であったことを、このとき神々は、わたしに教えてはくれなかった。