第二章
四
「翌日、ヴァッパが更に聞いてきた。彼等が真剣にわたくしに議論を挑んでくるということは、彼等がわたくしを認め始めたことを意味する。
『バラモンの説くところによると、宇宙の普遍的な我として、不変のブラフマン(梵)が存在するとしている。そして、わたしたちの意識の最も深いところにある、根源の個人我として、アートマンが存在するとしている。
このブラフマンとアートマンとの合一こそが最高の存在である、としている。では、宇宙の根源としての不変のブラフマンは、どのような条件、因縁によって生じたのであるか。』
〈不変の根源的存在というものは、条件、因縁によって生じるという理法に当てはまらない。理法に当てはまらないものは存在しない。〉
『では、アートマンはどのような条件、因縁によって生じたものであるか。』
〈それも、条件、因縁によって生じるという理法に当てはまらないから存在しない。〉
『では自己は存在しないことになる。しかし、事実は、わたしたちは見たり聞いたり話したり、判断し行動している。自己が存在しないで、どうしてそのようなことが出来るのか。』
〈自己は現にここに存在しているではないか、ヴァッパもわたくしも他の4人も。ただ、わたくしたちは条件、因縁によって存在しているに過ぎないから、それによって、どのように変化し続けるか分からない無常のものである。確かなものというものは無いのである。〉
『自己に〔確かなもの〕が無いとするならば、わたしは何を頼りに、誰を頼りに生きればよいのか。』
わたくしは言った。
〈自己が拠り所とするものは自己である。それ以外にはない。〉
『わたしはゴータマを頼りとしたい。』
〈わたくしには何の力もない。誰も、条件、因縁を支配することは出来ない。目の前に現われてくる、変化してやまない無常のものを有りの儘に見て、気を付けて対処するしか生きる道はないのである。〉
ヴァッパは言葉を飲み込んだ。まだまだ時間が必要なのだということが分かった。この日はこれで終わった。」
「日が変わってマハーナーマが質問してきた。5人で質問を分担しているのであろうか。
『ゴータマは食欲を無くすことは出来ないと言われたが、わたしは色欲も無くすことは出来ない。いい女がいれば、思わず立ち止まって見ないではいられない。』