第二章
四
幻影がゴータマの言葉となって語り始める。
「わたくしがコンダンニャ達を見付けた時、彼らもわたくしに気が付いたようであった。彼らは額を寄せて何やら相談しているようであったが、わたくしは構わず近付いて、前に立った。5人は硬い表情ではあったが、別人を見たように、驚いたように、わたくしを見続けた。わたくしは懐かしかった。
〈変わりはないかね。〉わたくしは尋ねた。彼らの硬い表情は変わらなかったが、わたくしを拒絶しているのではないことは分かった。〈わたくしの発見した理法が正しいかどうか、皆さんに検討してもらいたくてわたくしは来たのだ。皆さんが納得できるものであるならば、わたくしは自信を持って言える。わたくしの言う通り、理法に則とって修行を続けるならば、遠からぬうちに、安穏、安らぎを得る。〉
彼らは互に顔を見合わせたが、話を聞きたいとは言わなかった。〈最初は、わたくしが話すよりも、皆さんの質問にわたくしが答えるということでどうだろうか。詰問で構わない。関心のないことをいくら話されても、人は聞く耳を持たない。ここへ来る途中、わたくしは失敗したよ。〉
この日はこれでわたくしは打ち切った。時機が来て、彼らがわたくしの話を聞く気になるまでは、話しても、わたくしは疲れるばかりだ。翌日、彼らはわたくしに聞きたいことがあると言ってきた。質問してきたのはバッディヤであった。
『ゴータマよ、あなたの顔は輝いて明るい。何故苦行を止めたのか。苦行を止めて何が起きたのか。』
〈苦行を止めたのは、苦行は何の良いこともなく、ただ苦しいばかりか、遂には命を落す、ということに気が付いたためだ。苦行をしなければならぬという思いで苦しみ、苦行そのもので苦しむ。
わたくしたちは幸せに生きたいと誰もが願っているのではないのか。苦行はそのための方法の一つにすぎないのではないのか。苦行のためなら死んでもいい、というのは愚かだ。
わたくしは最後には食を徹底して減らしていった。その結果、体内に熱が漲り人間を越えた力を手に入れることが出来たであろうか。わたくしの体は瘦せ細り、筋肉は衰え、歩くことも叶わぬ程となった。