わたくしは苦行に徹したために、苦行が無益であることを確信することが出来た。何故6年も気が付かなかったのか。わたくしに、回りを有りの儘に見る智慧がなかったのだ。自分以外のものに頼るばかりで、自分を省りみる智慧がなかったのだ。
バッディヤよ、わたくしは食欲を断つことが出来なかった。生きて幸せを摑みたいのだ、という自分の思いを知った。生きたいと願う者を殺してはならぬ。殺させてもならぬ。
何の事はない。シャカ族の古老の教えそのままではないか。わたくしは古老の歩んだ道を、今、歩もうとしているにすぎないのだ。バッディヤよ、遺体に取り縋るように、泣いて付き従っていく老人を見たことはないか。苦行で命を落とした若者の親族であろう。よりよく生きるために死ぬのか……。〉
わたくしはスジャータの兄のことも話したかったが、バッディヤは静かに頷くと、わたくしを見て軽く手を上げた。わたくしは、もういい、という合図だと思って黙った。仮にも、彼も道に志して、家族を捨て、財を捨てた者である。理解したことは間違いない。この日はこれでわたくしたちの議論は終わり、一人一人、自分の時間に帰っていった。」
「わたくしたち6人は、共に行乞し、共に帰り、共に食事をした後、輪になって語り合った。ヴァッパが、わたくしが発見した理法とはどのようなものか、問うてきた。
〈わたくしたち出家といえども、在家と同様、老いに向かい死に向かっている。富(とみ)も権力も名声も愛も、無力だ。何故か。生まれたということによって老いと死があるのである。生まれるということがなければ、老いも死もないのである。凡ての事象は過ぎ去ってゆく。〉
『凡ての事象と言われたが……。』〈世の様を有りの儘に見れば、凡てのものは変化してゆく無常のものである。堅固なものはどこにもないということに気が付く。何故か。凡てのものは、条件、因縁によって、仮に形を成しているものに過ぎないからである。〉ヴァッパは黙ってしまった。他の4人も何も言わない。わたくしは今日はこれで止めようと思った。瞑想する時間が必要なのだ。」