光秀

「ははっ、誠にもって遺憾なことと存じ奉りまする。義昭公はこのところ諸国の大小名に御教書を送るなど不穏な動きもこれあり、某も気にかけておりまする。しかしながら公方様は、某の諫言に耳を傾けないばかりか会おうとも致しませぬ。某が先年十二月に将軍家直参を辞退する旨申し上げたこともあり、止むを得ない仕儀であるとも思っておりましたが、義昭公の最側近に、かつて私と共に行動した細川藤孝殿がおられます。この度は細川殿を通して今一度諫言書をお渡しするのも一策と存じます」

信長

「うむ、それも手ぬるい。ここに先の五箇条を含め、義昭公が守るべき十七箇条に及ぶ文言が記してある。義昭公はこれ程具体的に示さねば分からないと思われるからだ。また、義昭公がこのことを、『儂が無理難題を押し付けたと喧伝する』と思われるので、写しを武田信玄はじめ主だった武将にも配るよう手配せよ。さすれば義昭公も騒ぐこと叶うまい。よって、細川藤孝ともよく話し合い、厳しく申し伝えよ」

⇒光秀は、儂の意をしっかり汲んで、義昭に対応しているようだ。このような才覚の持ち主は儂の譜代の家臣には誰もいない。天晴である。

光秀

「ははっ、細川藤孝殿は義昭公を寺から救い出し、第十五代足利将軍にまでにした、いわば義昭公にとって大恩人であります。天下の情勢をよくわきまえたお方で、義昭公にもいろいろ諫言されているようですが、義昭公は他の側近どもだけの言に耳を傾け、細川殿も疎まれているとも聞き及びます。この際細川殿を義昭公の元を離れさせ、上様の騎下に加えるのも、義昭公の目を醒まさせる手立ての一つと勘考致します」

信長

「細川のことは予も知っておる。良きに計らえ……」

⇒光秀にはまだ話していないが、既に細川から予に仕えたいとの意向がきている。荒木村重も連れてきたいとか……重臣二人が抜けたら、さすが義昭もびっくりして、腰砕けになればよいが、なかなか……。

光秀

「はっ、叶わぬかもしれませぬが、やってみる価値はあると思いまする」

【前回の記事を読む】織田信長に怒り心頭の足利義昭。光秀との主従関係はどうなる?!