文子は筆を文机に置き、「まあ、手回しの良いこと。真一さん、やることが早いわね。私は何時だって構わないんだから、仰せの通りにしますよ」とあっさり承諾した。
「お母さんが大丈夫なら、そのように真一さんに連絡します。よろしいんですね」
「いいも悪いも、真一さんにお任せしたんだから、私が口を挟むべきことではないと思うの」
「わかりました。お母さんの言う通りです。今から真一さんに報告します」と言って一階に下りて行った。
リビングのソファーに座った瑠璃は、ポケットからスマートフォンを取り出し真一にメールした。
─お母さんと話し合った結果、明日高岡セントラル病院に検査入院すること了解しました。詳細は、帰宅してから聞くことにします─
送信してから約二時間後真一から、─高瀬くんとのやり取りは帰ってから話すから、それまでお義母さんとは検査入院の件、触れないでほしい─との返信メールが届いた。
瑠璃は昼ご飯の支度に取りかかった。迷った挙句、「お母さんが大好きな、西門素麺にしよう」と呟いた。
西門素麺は、ここら辺では美味しいので有名であった。ただ、三、四分でゆであげなくてはならず、文子に一階の食卓に下りてきて貰うことにした。
瑠璃は階段下から、「お母さん、お昼ご飯。西門素麺にしますから下りてきてください」と聞こえるように言った。
「西門素麺なの。すぐに行くから……」
文子は食卓の椅子に座るなり、「この素麺、昔の女性の丸髷(まるまげ)みたいな格好していて、なぜか郷愁に浸れるんだよね」と言いながら嬉しそうだった。
瑠璃は大きな鍋にたっぷり水を入れ、沸騰させた。沸騰したお湯に、髷目(わげめ)に沿って二つに割り麺をゆっくりと入れ、煮立ったところにコップ一杯の水を足し、再度煮立たせた。煮立った麺を素早く水切りに入れ、冷水で何度ももみ洗いして、ガラスの大皿に盛った。