イチローの大記録に寄せて
(四)
イチローのアメリカ大リーグでの憧れの選手が、ニユーヨーク・ヤンキースのバーニー・ウイリアムス(通算打率3割以上を打っているスイッチヒッターで性格は温厚、イチローと同じ51番の背番号をつけている。
いや、イチローが憧れてバーニーの背番号をつけたのである)やヒユーストン・アストロズのロジャー・クレメンス(300勝投手で、今期7回目のサイ・ヤング賞受賞に輝く。9イニングス20奪三振2回達成の大リーグ記録を持っている。性格は激しい。
二〇〇三年までヤンキースにいた)であることは知られているが、後年こうした憧憬が、せめて彼らが現役で活躍中に同じグラウンドに立って、プレーしてみたいという衝動を起こさせたと推測できる。
いずれにしても、イチローがアメリカ大リーグへ行こうとした決意とシアトル・マリナーズへ入団することになった真意は、正直外部の者には解らない。ただ、日本のプロ野球では抜群の成績を残せたが、これまで培ってきた自分の技術を更に向上させるため、よりハイレベルな大リーグに入り、尚且つ自分の真価を問いたかったに違いない。
また、アメリカに渡る数年前、果して自分の力が本場の大リーグで通用するのかどうかについても疑心暗鬼だったに違いない。
それをこの四年間で見事に実証し、衆目の期待以上の実績を残し、然も四年目にして年間安打262本という大リーグ記録を打ち樹てたのである。
アメリカに渡る前、大リーグにこんな記録があることをイチロー自身も知らなかったのではあるまいか。日本では本人が作った年間安打記録210本がある。
またメジャーに来た初年度の二〇〇一年には、242本を打って首位打者に輝いている。その時は今年ほど騒がれなかったし、シスラーのシの字も出なかった。
何故ならこれまで、イチローの 242本からシスラーの257本までの間には、シスラーが二年後に達成した246本を含めると、本人を入れて7人ものプレーヤーがいるからである。ただ、257本と242 本とでは僅か15本の差でしかない。
レギュラーシーズン当初から意識して少し頑張れば、この年に達成可能だったかも知れない。しかし、記録自体、途方もない数字だから、彼の意識の中に芽生えさえしなかったのだろう。