「知ってたら一緒にやったのに」と言ったら、彼女はゆっくり上体を起こしてこちらを見た。黒過ぎない大きな瞳、薄くて形の良い鼻、少しウエーブのかかったダークブラウンのショートカット。

「準備は済んだから乗ってちょうだい」

僕が助手席に乗り込むと、彼女は車のエンジンをかけた。九時にクリーム色のポロシャツ、白いパンツスタイルの小柄な女性が、少し遅れて、紺のTシャツに黄土色の綿パンをはいたやや小太りの男性がやって来て、車に乗り込む。誰とも挨拶を交わしていない、そんなふうに思っていると、我がリーダーは、「私はユミよ、よろしくね」と言って突然アクセルを踏み込んだ。

そして国道に出ると、あっという間に駐車場のある喫茶店を見つけ、素早く左にハンドルを切り、まっすぐ進んで車を止めた。

「ここで打ち合わせしましょう」

車道から歩道を横切って駐車スペースまでの間に車は二度、上下に大きくバウンドした。朝九時過ぎの喫茶店に客はいなかった。モーニングサービスが終わった時刻だ。臙脂色の布製のソファと焦げ茶色のテーブル、白い壁紙のところどころに小さな花の水彩画が掛けてあり間接照明がそれらを照らしていた。

薄暗い中、十組ほどのソファとテーブルが配置されている所を通り抜け、明るい窓際の席まで行って、我がリーダーはそこに座る。窓のすぐ外に赤い車が見える。

彼女は顔を上げ、隣の席に座るように僕を促した。小柄な女性がリーダーの前に、男が僕の前に座る。リーダーと僕はアイスコーヒーを、男はコーラフロート、女性はアイスティーをそれぞれ注文した。

「私はユミと申します。医者の卵の親友にくっついてはるばる金沢から出てきました。彼女は病院研修中でほとんどつき合ってくれません。私は社会勉強のため憧れの東京で働いてみることに決めました」