第三のオンナ、
千春
よく考えてみれば、今日は無理して貴輝を呼び出さなくてよかったかも。わたしは少し反省する。復讐計画は構成が大事だ。効果的に、まゆ実を追い込んでいかなければならない。
貴輝とは二回、しかもわずかな時間しか会っていないが、見た目だけでなく、内面からいい男オーラのようなものが滲み出ているのを感じた。
まゆ実が彼に惚れたのも頷ける。いや、女性なら誰もが好きになるかもしれない。
いっそのこと貴輝を奪っちゃおうかな。目的が達成されたあかつきにはアプローチしてみようか。もちろん素顔の自分で。
この六年間、恋愛というものを経験していない。亡き姉の弔(とむら)い合戦を果たすべく、そればかりで頭がいっぱいだったからだ。人並みに恋愛ができないのは、まゆ実のせい。
母がいなくなったのも、まゆ実のせい。何もかも、まゆ実のせい。誰がなんと言おうが、まゆ実のせい。絶対に、まゆ実のせい。まゆ実のせい……。
気がつくと、ケーキを握り潰していた。わたしは自室を出て、浴室に入った。メイクを落とし、シャワーでさっと汗を流すと、鏡に映る自分をじーっと見つめた。うん、まゆ実じゃない。
顔の骨格がどことなくまゆ実と似ているため、整形メイクがしやすいということもあるが、何度見てもまゆ実じゃない。素顔に戻ったわずかなひとときだけが、素の自分に戻れる。
とにかく落ち着く。
外出する際は必ず整形メイクを施さなければいけないからだ。まゆ実に変身している間は非凡な人生でいいが、素顔のときは平凡でありたい。
風呂からあがった。部屋着に着替えると、居間の壁かけ時計は午前二時を指していた。静寂に包まれた家の中に、わたしは一人。いつものことだ。
姉の遺影の前に座り、なんとはなしに経机の引き出しから大学ノートを取り出す。ぱらぱらとめくっていく。当たり前だが、いつ見ても、目を覆いたくなるような落書きは消えていない。けれど、もうすぐなんとも思わなくなるはずだ。無意識に、意味もなくぱらぱらとめくっていく。
ん? 手が止まった。ノートの後ろのほうをよく見ると、最後の一枚だけ、切り取られた形跡があった。
どうして今まで気づかなかったのだろう。同時に、なぜ? と疑問が沸き起こる。