「おはよう狢、ジギーの声が聞こえた?」

「おはようカナデ、バッチリ聞こえたよ」

「ふふっ、よかった」

「みんなここにいたんだね」

太いシッポを振りながら辺りを見渡す狢。

「なんて明るいんだ」

「ここはカトマンザの屋上、光の屋上(ラブドーム)」

「ラブドーム?」

「そう、そして彼は」

「Mr.荻(おぎ)!」

初対面のはずの狢に呼ばれ、Mr.荻はにっこり笑った。

「やあ、よく来たね狢」

「お久しぶりですMr.荻(おぎ)」

狢はピンと耳を立てて言った。

彼、Mr.荻に会うと誰もが懐かしい気持ちになって自然に「お久しぶり」という言葉が口を衝いて出るのだが、そのことに特別な理由はない。誠実そうな表情と会う人に強烈な親しみを感じさせる風貌、胸が疼(うず)くほどの懐かしさを瞬時に抱かせる何かが彼にはある。

またもしMr.荻に特徴と言えるものがあるとしたら、それは笑顔だろう。何もかもを引き受けてくれるような満面の笑みこそが彼の最大の特徴であり人格(パーソナリティ)の核と言っていい。それ以外はこれといって特徴のない「どこにでもいるような床屋さん」が彼の代名詞。白い上着の胸に縫い込まれた文字は「Strong Love」、雪花菜ばあやのエプロンとおそろいだった。

【前回の記事を読む】入口はあっても出口はない。出口はないが終わりはある愛の部屋「カトマンザ」