彼は財務の分かる人間で、私たちの発見が数十億ドルの価値があることを知っており、この隠蔽工作が何かも彼はよく理解していた。まさに知的財産権なのだ。
私たちは新しくレトロウイルスの一群を発見しただけではなく、同僚の研究者たちによるとそのウイルスはワクチン接種によって大勢の人にばらまかれ、1000万人以上のアメリカ人が感染させられた可能性があるというのだ。
私はなにかトラブルに巻き込まれるのだろうか?
「携帯電話を処分するんだ」と彼は言った。「携帯からバッテリーを外して海に捨てるんだ。二度と携帯を使うんじゃない。奴らは携帯電波から追跡するからね」
ケンも私もシークレットエージェントだったわけではない。私は科学者で、彼は医療関係の経歴を持つ財務畑の人間である。
「オーケー」と私は答えた。
「君が来られないことは説明しておく。でも君はすぐそこから出るんだ」
私たちはそのあと数秒話し、すぐに切りあげ携帯からバッテリーを取り出した。
その時、慢性疲労症候群の患者で自閉症の子どもを持つ母親から2011年夏に送られてきた物が詰まった縦横7×5インチのマニラ封筒を思い出した。私たちは当時慢性疲労症候群が自閉症に関係するかについて注目していたが、実際のところ私たちの研究はもっと広い領域に及んでいた。
レトロウイルスに感染すると、その人の遺伝子に固有の弱さによってはいろんな病気が引き起こされることになる。
私は政府機関に所属する科学者として約20年間の大半を国立ガン研究所で働いてきた。長年慢性疲労症候群を患う患者に異常なガンが発症するパターンがあり、その状況に私は問題意識を持つようになっていた。
エイズウイルスと同様にマウス白血病ウイルスを持つ母親はそのウイルスを子どもに直接感染させることになる。配偶者への感染もありうるが、その確率は低い。
膨らんだ縦横7×5インチのマニラ封筒には100ドル紙幣が数枚、キャンプ用ポータブル便器、録音可能なカメラ付きペン、使い捨て携帯電話、そして「あなたは分かっていないだろうけど、これらは必ず必要になるわ」と書かれたメモが入っていた。