「教会の最初の鐘だ」ルイスは言った「後から後から鳴り響くぞ、キーン、コーン、キーン、コーン、キーン、コーン」

「ほら、テーブルクロスが風になびいているわ、テーブルのふちで白くひらめいて」ローダは言った「丸い形をした白い陶磁器がいろいろ並び、お皿の横には銀のナイフやフォーク、スプーンが置いてあるの」

「突然、蜂が一匹耳元をブーンとかすめたぞ」ネヴィルは言った「あっという間に飛んで行っちゃった」

「ひりひりと火照っていたのに身震いがするわ」ジニーは言った「日なたを出て日かげに入ると」

「みんな行ってしまった」ルイスは言った

「僕一人だ。みんな朝食に家の中へ入ってしまったけど、ひとり壁際に立ち花に囲まれている。始業までにはずいぶん時間があるぞ。

花々が深い緑の上に点々と咲いている。花びらはひし形模様のようだ。茎は地下の暗い穴から伸びている。花たちは、まるで光でできた魚のように、暗い緑色の水面を泳いでいる。一本の茎をつかむと、僕は茎になる。根になり、世界の深奥に降りていく、がれきを含んで乾いた土や湿った土、鉛や銀の鉱脈を貫いて。僕はすっかり根だ。あらゆる振動に震え、大地の重さに肋骨がきしむ。この地上では、僕の眼は緑の葉っぱ、何も見えない。

僕は灰色のフランネル服を着て、真鍮のヘビ型留め金でベルトを締めた少年、この地上では。ところが地下の世界では、僕の眼はまぶたの無い眼、ナイル河畔の砂漠に立つ石像のようだ。女たちが赤い水瓶を持って河へ水をくみに通り過ぎていくぞ。ラクダたちが体を揺らし、男たちはターバンを巻いているぞ。僕のまわりには、どしん、どしんと歩く音やわななく音、騒がしい音があふれているんだ。

【前回の記事を読む】水平線の縁には弓なりの炎が燃え、あたり一面の海は金色に燃え上がった