「今日の夕食は何ですか?」と悠真が食卓のテーブルの定位置に陣取った。
「今日は皆さんが好きな、すき焼きにしました。いつも買っているお肉屋さんが本日特売日で、お肉のセールをしていたから、出来るだけ脂身の少ない部位を選んできました」
「美代子さんは、今日のお昼にサバの焼き魚を召し上がったと聞きましたので、丁度良かったですね!」
「私、お肉大好きですから」
「そうか、美代子はフィットネスの初日だったんだね、体が動いた?」
「何しろ、初心者だから一番後ろで、皆に目立たない場所で、動きについていくだけで大変でした」
悠真が美代子の顔をじろりと見渡し「顔、艶がいいね、血行が良くなった証拠だよ。効果てきめんだね。どんな年齢層が中心なの?」
「エアロビクスの初級クラスは、二十歳から七十歳位までと幅が広いみたい。皆、格好良く動くというより、体を動かすことに興味がある人みたい。私の隣でリズムをとっていた篠田さんという方は、年は同じくらいかな。マイペースでやるのが一番、とおっしゃっていた。その方が運動した後でミストサウナに入るのが好きで、ゆったり時間を使って終わりに湯船に浸かって半日、のんびりするそうです」
「たまプラーザ近辺は、急に開けた新興住宅地で、東京辺りから引っ越してきた中高年のお金持ちが住んでるからね。ジムの客層もそうでしょう」
「そう言われれば、室内の雰囲気が垢ぬけているように思える。気のせいかな」と自分の立場がどのへんか少し戸惑って返事を返した。
悠真は、フィットネスクラブの話を聞いていて、自分も満足な体であったなら、美代子と一緒にジムでウエイトトレーニングをしていただろうと、悔しさを隠しながら、美代子の満足そうな表情を楽しんでいた。
一方で、美月にも気を使いながら悠真は「美月も時間が許せばやってもいいんだよ」
「ありがとう、でも、私は運動オンチだから」
「ジムにはいろんなメニューがあるんだよ。プールもランニングも機械もダンス も、自分に合ったものから始めればいいのだよ。ちゃんとインストラクターの若いお兄さんも付いているから、手取り足取りで教えてくれるよ。まだ家にこもる年齢じゃないから」
悠真は、普段、自分にかかりきりになっている、美月にも気を使っている素振りを見せ、二人の女性の間で微妙な雰囲気を感じ取っていた。