「うん、全然いいよ。じっとしてればいいってことでしょ」
説得の言葉を準備していたが、タツマさんはあっさり許可した。海に浮く大陸のようにベッドに仰向けで寝ると、両手をシーツに広げる。
わざとらしいパステルカラーの裏声で「優しくしてね」と言われて逆なでられたが、平静を装いながら彼の身体を見回した。
「じゃあ、これ使っていいですか?」
彼の眉間にしわが刻まれる。視線は、私が持った手錠とアイマスクに向けられていた。
「それ自前?」
にっこり笑顔で返事して、彼を拘束した。今日はなにもしなくていいから、と囁く。
セイヤさんの語った凄腕ピンサロ嬢の話に、あのあと私は様々な想像を膨らませた。彼女は影の立役者だった。救われた男性たちが店の外でも語るほどの腕前になるまで、どれほどの道を歩んできたのだろう。
あるがままに生きることを選んだうえで、自分に価値を生み出したのだ。それはどんな男性でも手綱を取られた馬同然になるはずだった。素手で異性を支配する彼女に比べると、私がしていることは下手の道具調べのようなものだったが、自分なりに考えた結果だった。
タツマさんの鼻先に顔を近づけ、見えていないことを確認する。目隠しをされた男性がベッドに拘束され、黙している光景は新鮮だった。ベールに包まれたターコイズブルーは、謎多き宝石のようだ。なにを考え、期待しているのだろうか。いつもは顔が近づけばキスされ、そのまま組み敷かれて挿入されたが、今や腕は頭上に固められ、私の居場所もわからないはずだった。
主導権が自分にあるのだと思うと、ビビットな興奮色が胸に湧き上がってきた。形から入るのも悪いことばかりではないかもしれない。
口づけると、ようやくやってきた触感に彼は魚のように食いついた。粘膜に吸いつかれる感触にぞくりとしたが、リードするのは私だ。彼が舌を滑りこませる直前に離れた。もの足りなさそうな嘆息を漏らす彼に、自分の中のなにかが満たされていく。唇を下ろしていった。片手で肌をたどりながら、つま先まで挨拶のようなキスをする。足先から上へ戻っていくと、その場所は触れてもいないのに反応していた。
全身に好きなだけ触れ、ほくろの数を数えて、やわらかい場所も固い場所も探る。そして最後に、小さな四角いパッケージの封を切り、先端にあてがった。