四 あ 1068
天(あめ)の海に 雲の波立ち 月の舟
星の林に 漕ぎ隠る見ゆ
柿本朝臣人麻呂歌集(かきのもとのあそみひとま ろ)
訳 天空の海に白雲の波が立ち月の舟星の林に漕ぎ隠れ行く
【注】月見の宴歌か。天象を海・雲・舟・林等、地上のものに譬えて詠む
五 あ 4374
天地(あめつち)の 神を祈りて さつ矢貫(やぬき)
筑紫(つくし)の島を 指(さ)して行く我は
火長太田部荒耳(くわちやうおほたべのあらみみ)
訳 天地の神に任務を果たし無事に帰れることを祈り矢を靫にさし今から九州島に行くぞ、私は
【注】1.さつ矢=ここは戦いに用いる矢を指すが、本来は狩猟用の矢のこと。防人は弓50本を携行する規定になっていた
【注】2.火長=兵士10人を一火という。その長
女性の歌で、煮え切らない男性に対する誘いかけの歌
六 あ 2477
あしひきの 名に負ふ山菅(やますげ) 押し伏せて
君し結ばば 逢はざらめやも
柿本朝臣人麻呂歌集(かきのもとのあそみひとまろ)
訳 あしひきの山の名を持つ山菅、その山菅を荒々しくなぎ倒すように、私を押し伏せてあなたが契りを結ばれようとなさるのでしたら、お逢いしないこともありませんよ
【注】1.あしひきの名に負ふ=「名に負ふ」は名として持つ事をいう。「あしひきの」
は本来「山」に係る枕詞であるが、「山菅」はその「山」の語を含むので言った表現。上二句は、山菅を踏み倒すように、乱暴に相手の身体を押し倒して、と続けた譬喩の序
【注】2.君し結ばば=あなたが契りを結ぼうと思いさえすれば、の意