捜索

尋一は、上忍の前衛門と共に風間谷への帰路を進んでいた。

─信じられない。杏がさらわれたなんて。鳶加藤の野郎。必ず見つけ出してやる。

尋一の思い詰めた顔を見て、前衛門は尋一に声をかけた。

「尋一。悔しい気持ちは良くわかるが、くれぐれも無理をするなよ。頭目からもきつく言われているからな」

「……」

尋一は、下を向いたまま黙っていた。

「まあ、今は何を言っても声は届かないか。俺がしっかり見るから心配ないだろう」

行きよりも速い速度で、本隊から分かれた三組(六十人)は風間村に向かっていた。風間村に着くと、留守を預かる引退した忍者が慌てて、上忍の前衛門に近寄って来た。

「留守を預かっていたのに、こんなことになって申し訳ない。気づいてからすぐに鳶加藤を追ったのだが、どこにも見当たらない。どうしたものか」

引退している年老いた忍者も慌てていた。

「それよりも残った者の動揺を鎮めてくれ。捜索は、我々三組(六十人)が行う。他の三組も八王子近辺を探しているから、きっと見つかるだろう」

前衛門は、もう二組の隊長である上忍二人に話しかけた。その二人とは、いつでも落ち着いている在次郎と鳶加藤が所属していた組の隊長、列衛門である。

「在次郎の組は、駿河へ。俺と列衛門の組は、甲斐から探し、信濃まで探す。たぶん奴は抜捜索け忍になって他家へ仕官するつもりだろう。駿河の今川氏、甲斐・信濃の武田氏は同盟国だが、他家の領国で行動する時は、くれぐれも注意してくれ」

頭目から徹底的な捜索を指示されていた前衛門は、二人の上忍に伝達をした。

「それと俺は、尋一に張り付いて捜索にあたる。尋一も頭に血が上(のぼ)っている。注意して行動を見守らなければ」

前衛門は、自分に言い聞かすように二人の上忍に付け加えて話した。

「大変です!尋一が独りで鳶加藤を探しに行ってしまいました」

前衛門から尋一を見張っておくように言われていた中忍が、慌てて飛び込んで来た。

「何!尋一は今、冷静な判断ができない。鳶加藤と共に尋一も探さなければ……」

前衛門を始めとした三組(六十人)は、休む暇もなくそれぞれの捜索個所に散らばった。

在次郎の組(二十人)は、駿河へ。前衛門と列衛門の組(四十人)は、甲斐へ向かった。

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