カラスのクロ
家族の一員になったクロ
「グリーンピースの種があるよ。大豆も蒔こうよ」
和夫さんはお百姓さんになったように熱心でした。
「豆はカラスが狙っているから、糸を張るといいですよ」
と田中さんが教えてくれました。大学会館の横の池はフナ釣りの人たちが日曜日には並んでいました。釣り人が捨てていった釣り糸を田中さんは拾っておいて、畑に1本張っていたのです。
「カラスは目がいいからね。種を蒔いているのを遠くで見ていて、人がいなくなると掘って食べてしまうのですよ」
と田中さんが説明すると、和夫さんが、
「へー。どこに種を埋めたか分からないだろうに」と尋ねました。
「畑の畝を見ていて、埋めたところだけを掘っていくのですよ。カラスは本当に賢いですからね」
田中さんの勧めの通りに糸を2本張ったので、カラスに狙われることもなく、大豆もグリーンピースも芽が出てきました。サツマイモも元気につるを伸ばし始めました。
「危ないよと知らせてあげると、カラスは近寄ってこないんだよ」
と日曜日に、父の和夫さんは一郎と純二に教えました。母の春子さんはせっせと畑の草を取っていました。
肥料は人糞です。田中さんの肥桶と肥びしゃくを借りて、担ぎ棒の前後に肥桶をつけて、和夫さんが〝エッサカ、ホイサカ〟と運んで畑にかけました。運動場の片隅ですから日当たりは抜群ですし、肥料もたっぷり与えましたので、畑の野菜はぐんぐん大きくなりました。一郎が、
「クロは畑のものは盗まないよね」
と言うと、父の和夫さんは、
「家でたくさんご飯を食べて出掛けるから、泥棒はしないと思うよ」と笑って言いました。
梅雨が来て、毎日毎日雨模様 です。雨が降っているとクロは出掛けません。窓のそばで、じっと空を見上げています。そういう日は大変です。部屋中に新聞紙を敷いて、クロが糞をしても掃除がしやすくしないといけません。雨がやまないと分かると、クロはかごに入って、水を飲んだり、床にうずくまってうつらうつらしています。雨音がしなくなると、かごの網を突っ突いて、
「外に出たいよ」
と合図をするのでした。