クロが帰ってこない

ある日、夕方薄暗くなってもクロは帰ってきませんでした。純二は、窓を開けてずっと空を見上げて、

「どうしたのかな、クロは? どこかで、捕まったのかな? 山のカラスに虐められたかな?」と晩ご飯の時間になっても、窓から離れませんでした。

「今日は帰ってこないよ。どこかで、寝ているよ。ご飯が冷めてしまったけど、食べてしまいなさい」

と母の春子さんは、ご飯を食べるように促しました。お風呂に入って、布団を敷いて寝る時間になりました。電気を消しても、

「クロはどうしたかな?」

と話しながら、いつの間にか寝ていました。

次の日、純二は学校から帰ると、ランドセルを玄関に置いてそのまま外に出ました。裏山には、カラスが何羽も棲み着いていました。2羽ずつのつがいと思われるカラスが飛んでいました。大きな赤松の林の中に巣があるに違いありません。また、1羽で松の枝に止まっているカラスもいました。純二は松の木に近づいて、

「おーい、クロー」

と叫びました。何の返事もなく、シーンとしています。ここにはいないなと思ったので、探す場所を変えることにしました。まず北校(ほっこう)の横のテニスコートのあたりに行って、

「クロー」

と叫びましたが、何の応答もありません。それから、何か手がかりが見えるかもしれない、北校の屋上に上ってみようと考えました。北校はテニスコートの横からスロープを上っていきます。建物の左端に玄関があって、入口横には守衛さんが座っています。ちょっと見ると、以前、父と一緒にいたときに話をしたことがある守衛さんでした。そこで勇気を出して、

「ちょっと屋上に上がらせて下さい」

とお願いすると、守衛さんは、

「普通はダメだけど、先生のところの子どもだから、特別に許可します。危ないことはしないで、早く降りて下さいよ」

とやさしく言って、入れてくれました。

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