羅生門
鳥居がどこまでも続いていた。まるで合わせ鏡の中を覗いているようだ。暫く歩くと鳥居が途切れ狛犬の像が両端におかれている場所に行き着いた。その先には小さな祠が建ち、祠の横には杉の巨木がありその前には奇妙なモノが一体存在している場面に遭遇した。
「餓鬼に御座います」毘沙門天が英良の心中を読み答えた。
「餓鬼……?」
「御意。地獄からの使いの者に御座います英良様」毘沙門天が答えた。
餓鬼……それは見るからに醜悪であり、英良は自分とは全く異質のモノに感じた。否……英良には異質なモノとして映っているが、他の人にはある意味、異質には見えないかもしれない。それは異質ではなく、本質の問題かもしれない。
金銭欲や出世欲などの世俗の欲を求める人間がいる反面、労りの本質しか持っていない人間がいるように、英良には異質でも、餓鬼を異質と認識しない人間はいる。
「我の剣、これは羅生門といいこれも光の剣に御座います。英良様の光力を受け、我等を蹂躙しようとする闇の塊を一掃する剣でも御座います。これからこやつを斬り捨てます」
毘沙門天は本差しの羅生門を抜き一刀両断で餓鬼を斬った。一瞬悲鳴のような声が上がり餓鬼は風塵となって消えた。
暫く英良と毘沙門天は無言で立っていたが、砂塵が舞い上がり辺りが薄暗い気配に変わってきた。毘沙門天は餓鬼を振り向くこともなく英良に言った。
「英良様。これから地獄の門をこじ開けますぞ」
毘沙門天は傍にある巨木の根の辺りを指さした。英良が見ると五十センチほど歪んでいる。
「我についてきて下され英良様」と毘沙門天は両足から歪へ突っ込んでいく。英良も気合を出して飛び込んだ。
暗闇を進んで行くと毘沙門天の光に反応して周囲の闇が不穏な動きを見せ始めた。何もいなかった闇の空間に一つ、また一つと黒いモノが現れ始めた……魑魅魍魎が毘沙門天へと迫る。
いつの間にか魑魅魍魎が毘沙門天を囲い込む。黒い塊、それらの姿が次第にはっきりと現れだした。先ほどと同じ餓鬼である。口が尖り、目がなく、髪が顔の半分を隠し手が短く腹が異常に出ている。
「どけどけ餓鬼ども!」
毘沙門天は、羅生門を抜き餓鬼を一刀両断に斬り捨てていった。暫くして遙か前方に黒い塊が現れた。
「ぬぅ……」
毘沙門天の右手は羅生門の柄を掴み身構えた。漆黒の闇の軍勢であった。