「英良様。不穏な気配、負の力が迫っています。これから対峙致す。英良様の助力なしでは突破は不可と……光力千陣羅生門(こうりきせんじんらしょうもん)これを可能な限り放って下され英良様」

英良は光力千陣羅生門を詠唱した。その言霊の力が毘沙門天に届き鮮烈な光陣が毘沙門天の脳天からつま先まで貫き羅生門に伝わった。

直視できないほどの光が閃き周囲の闇を照らした瞬間に毘沙門天は羅生門を鞘から抜き、上段から一太刀で大闇を斬り捨てた。一瞬の出来事だった……あの闇の塊が凄まじい光力で消滅してしまった。

「なんというお力か……」

怒りの表情から元の表情に戻った毘沙門天は、受けた力の大きさに感嘆した。今まで殺伐とした強風が吹いていたが、今は止んでいた。

悪意のある力は強大で他を圧倒するが、毘沙門天と羅生門は大闇を凌駕する何かを持っており毘沙門天の元の表情はその何かを感じ取っていた。

光が届かない薄暗い世界を英良と毘沙門天は進んでいた。足下に何があるのかも分からない。不意に背後や横から襲撃されたらひとたまりもない状況だ。

暫く進むと、両側が岩壁で下り坂が見えてきた。その坂が右方向へ緩いカーブとなって繋がっている。そこを抜けるとすり鉢上の開けた窪地に着いた。そこで驚く光景を目の当たりにした。

「毘沙門天殿。あれは……?」英良は毘沙門天に奇妙な情景を尋ねた。

少し考えた後に毘沙門天は「あれは太陽神に御座いますな……」と答えた。

「太陽神?」

「御意」

「それと?」

英良はもう一方の正体を毘沙門天に尋ねた。

「鵺(ぬえ)に御座います」

伝説上の生き物「鵺」それと「太陽神」。鵺が太陽神の上に覆い被さっていた。太陽神はこのままでは滅されてしまう。何とかしなければ。

「助けますか?」毘沙門天が英良に聞くと

「当たり前じゃないかな」英良は答える。

「御意」

毘沙門天は、すばやく鵺の背後へと降り立ち羅生門を鞘から抜いた。鵺は異変に気付き太陽神から離れ距離を置き毘沙門天と対峙した。

毘沙門天は鵺の腹に一太刀入れようとしたが、鵺は後方に一回宙返りしかわす。然し毘沙門天の二太刀目は鵺もかわしきれず、苦悶の表情を浮かべる。

毘沙門天はその好機を見逃さず、鵺は三太刀目で上段からの毘沙門天の振り下ろす電光石火の太刀に抗しきれず真っ二つに斬られ灰と化して消えていった。

【前回の記事を読む】これからの戦いのため、英良は地獄へ向かう。毘沙門天に連れられ、肉体を離れ…。