知覧平和公園での参拝を終え、近くの茶店で紫芋のソフトクリームを注文した。この紫芋が脚光を浴びるようになったのは何年前だろう。
あまりに濃い紫なので一般には流通せず、家庭菜園のみで細々と生き延びてきた紫芋は、今やソフトクリームだけではなく、チップスや土産用の菓子の餡にも用いられている。栄養価が高く、色の珍しさもあって高価な食材になりつつある。
知覧から川辺の清水磨崖仏が見られる清水岩屋公園へ向かった。公園入口までの道沿いの桜が満開で、まるで桜のトンネルをくぐっているようだ。
駐車場からすぐに公園には入らずに左手の散歩道を万之瀬川の方へ歩いて行った。
万之瀬川沿いに高さ二〇メートル、幅四〇〇メートルに渡って大きな岩に彫られた磨崖仏を眺めることができる。
平安時代から明治時代まで七百年にわたり彫られたもので、古いものは平家の落人 が祖先の供養のために彫ったと伝えられている。
日本一の大五輪塔、月輪大梵字、十一面観音像など二〇〇基が確認されている。歴史的にも仏教的にも価値が高く、一九五九(昭和三十四)年に鹿児島県の史跡に指定された。
この古い大五輪塔は、仏教の考えである世界を創る五つの要素(地・水・火・風・空)の形を下から順に彫ったもので、それぞれに「ア、バン、ラン、カン、キャン」と梵字が彫られ、一つの経となっている。
落書きをする心無い人がいるためか、今では近くで見ることができず、川の反対側から写真を撮ることしかできないのが残念だ。
この磨崖仏を右手の対岸からゆっくり眺めながら川沿いの道を歩いた。桜の花びらを浮かべた川の中にある飛び石を渡ると、正面に金閣寺を模して造られた「桜の屋形」が見えてくる。
「お茶にしましょうか」
紗季は晃司を誘って茶店になっている桜の屋形に入った。梵字が浮かぶ抹茶ラテを頼んで、庭を眺めながら一息ついた。ここを訪ねた記念にと、桜の花びらを模した錫 製の箸置きセットを求めた。