「保釈請求に当たって、検察として裁判所から意見を問われた時、強硬に保釈請求に反対の立場を取っていれば、保釈は認められなかった筈です。そもそも傷害致死罪での起訴っておかしいでしょう? あれは明確な殺人なのに?」と桜田警部が検察の対応を批判すると

「刑務所も満杯なんだ! 軽々しく刑期が長くなる殺人罪なんかで起訴できないんだ!」と団が感情を露わにして、司法が崩壊しかけている現実を口走ってしまった。

この発言によって二人の間の会話が途絶えた。その重苦しい沈黙を破ったのは団の方だった。

「桜田警部、時間を取ってもらえませんか? 『百聞は一見に如かず』ですから貴方にF刑務所の現実をお見せしますよ。私が案内役を務めますから……」と提案してきた。

「分かりました。時間は私よりお忙しそうな検事に合わせます。今の刑務所の実態を是非見せて下さい」と桜田が応えた。

このアポなしの桜田警部の団検事室訪問から二週間後、二人はJR中央線西国分寺駅で待ち合わせ、駅からタクシーでF刑務所へと向かった。

二人を乗せたタクシーは一五分程でF刑務所の正門前に着いた。団が桜田を伴って視察すると予めアポを入れておいた為、須崎刑務所所長が直々に出迎え刑務所内を案内してくれる事になった。

「お待ちしておりました。所長の須崎です。私がお二人をご案内させて頂きますので、何卒宜しくお願い致します」と挨拶して頭を下げた。

「検事の団琢磨です、所長直々のお出迎え恐縮に存じます。本日は何卒宜しくお願い致します」と言って所長の挨拶に応えた。

「桜田警子と申します。宜しくお願いします」と言って、桜田は名刺を差し出した。それを受け取って

「おう、警部殿ですか? 内閣府所管の児童・母子福祉警察官……」と呟きながら珍しい来訪者に関心を寄せた。

正門から刑務所内に入ると早速所長のガイドが始まった。