「そんなことないよ。俺は、由紀さんといる時間が楽しくて──」
「これから先も、そう言えるんですか?きっと私といるのが辛くなります」
やけくそになって、言った。
「……」
彼は、黙ってしまった。それが、答えなのだろう。私は、バカだ。こんなにも好きなのに、こんなにも、こんなにも、誉さんの傍に居たいのに──。
私は、白杖を左右に振りながら、足早に歩き出した。私の恋は、もうこれで終わりだ。明日からは、これまでと同じ日常が、また始まるだけ。誉さんのいない日常が──。
5
あの日から丸一週間、私は学校を休んだ。初めての失恋、自暴自棄になっていた。両親には、「体調が悪くて」と、伝えていたが、一週間前には、うきうきして出かけた娘が、帰ってきた途端に、ベッドに突っ伏して泣いている姿を見て、そっとするのが一番の良薬だと思ったのだろう。「学校へ行きなさい」などの催促はなかった。
だが、月に二回は、陶芸教室がある。今日はその日だ。土に触れていると、心が落ち着く。強張っていた体がほぐれていく感じがした。ここ何日か、誉さんからの着信が何度かあった。でも、出なかった。私では、誉さんに迷惑を掛けてしまう。
「由紀さん、今日はいつもより元気がないようですが、大丈夫ですか?」と泉先生が声を掛けてくれた。「大丈夫です」と私。
「先生、きっとあれだよ、あれ。由紀ちゃんは、失恋したんだよ。そっとしておきな。こういうのは、デリカシーっていうんだ」
権さんが、教室中に聞こえるような大きな声で、言った。
「権さん、あんたの声の方が、デリカシーないよ」と六十代後半の佳代さんが釘をさす。私は、土練りの最中だった。土練りとは、粘土の硬さを均一にし、中に入っている空気を抜く大切な作業だ。この良し悪しで、焼きの出来上がりに影響する。
私は、いつもより入念に土練りをしていたので、ドン、ドン、ドン──と、粘土が台に叩きつけられる。その音が教室中に響く。いつもおしゃべりな権さんも静かになった。