警備救難情報システムを見る当直員から報告される。
「衝突コースになる船舶はありません」
「了解……」
「時間経過で追跡するように……」
「了解……」
機能的に配置された船橋内中央には操舵輪右側にジャイロコンパスやレーダー、さらに警備救難情報システムの各種航海計器が設置されている。すぐうしろに機関制御室がある。さらにそのうしろが通信区画になりOIC(運用司令室)となる。
速力指示両舷前進九ノッチ(速度調整器)。速力はログで二十四ノット(スピード単位:時速約四十四キロメートル)を示している。GPSで二十五ノットを示していた。
鋭い船首は波を蹴散らし、扇型を描く、船尾の排水流の状況がわかるモニターから白いウエーキ(排水流の波)が盛りあがる様子をとらえていた。天気晴朗順調な航海である。右舷正横約三マイルに白い潮岬灯台や測候所のアンテナが見える。本土から突きでたちいさな半島の西端である。
北西の風七メートル波浪三、僅かに波頭がくずれて白波が立っている。雲量三の晴れであり、そんなに荒れている航海でもない。朝陽を受けて海の色は重い青色を表わしていた。上部の波は僅かにくずれて白色の泡となって筋を引く。遠くに和深崎の突端が見える。
五日間の哨戒行動を終えた基地入港日であり、航海科や機関科の若い海上保安官はうきうきしている様子が十分にうかがえる。
海図台の横におかれている船舶電話がコールしている。通信科当直が応対する。
「巡視船『あきづ』です。おはようございます……ファックスですか。切り替えます」
応対のやり取りからしてファックスの受理らしい。スタートボタンを押す。内容が気になる。海難発生の指示も時にはある。海難救助対応の指示かとでてくる用紙を真剣に見つめる通信科担当。やがてでてきた用紙を見た担当は、航海科先任当直士にファックス用紙を渡した。
『青木主任航海士を六管区松山に派遣させよ。関西空港保安航空基地のMH五百三十二がすでに基地を飛び立っている。HRの場所はヘリパイロットとあきづ船長所定とする。五百三十二と調整の上対応願いたい。五警備課長』
末尾には田辺オペレーションと記載があった。先任当直士は了解した。あとすぐに青木の業務処理班である班長の村上通信長、それに航海科の増田航海長、藤江機関長の各科長と船長、業務管理官に報告された。
第一公室のポールドからは白い波は僅かに見える。船体はあまりゆれていない、概ね凪ぎの航海である。あと二時間もすれば基地に入港して潮にまみれている船体の水洗いもできる。あとは緊急出港に備え清水を搭載する作業になる。
巡視船『あきづ』乗組みの主任航海士、青木治郎……通称ボースンは第一公室所定の場所のソファーに座り考えていた。
まだまだ新造船であり傷みもない。数十年を経過した船でもなく、おおきな汚れもなく整備作業も考えてなくていいものと思っていた。好きなコーヒーを飲みながらそう考えていた。一瞬目を閉じ、頭をうしろに伸ばしていた。
「ピ、ピー」
緊急指令や指示をだす信号である。船内スピーカーで放送された。
『青木主任航海士、船橋まで……繰り返す。青木主任……』