第一章 イマジン

そんな華音を見つめていたバスの当麻健太(とうまけんた)が、野太い声で言い放った。

「もうぐちゃぐちゃ言うのやめようぜ! 俺は、『イマジン』がいいと思う。あの歌、好きなんだ。他に理由なんてないんだ。だけどあの曲、合唱曲にアレンジされているのかな? 先生」

「確かにそうね。早速調べてみるわ」

当麻はぶっきらぼうに、

「なきゃ、先生がアレンジすればいいんじゃない」と一方的にしゃべった。

華音は部員たちの前に出て、

「合唱曲にアレンジされたのがあるかどうか、調べます。その前に今の提案、部員全体の意思と考えていいのね」と確認した。

「みんないいわよね。賛成の方は挙手……」と立川は意思を確認した。

全員そろって手をあげた。

華音は、早速その場でスマートフォンを使って『イマジン』が合唱曲にアレンジされた楽譜があるかどうか検索した。

「あったわ。混声四部合唱曲にアレンジされたのがあるから、取り寄せてみることにするわ」「先生、よろしくお願いします」との声が音楽室に響いた。

合唱コンクール出場締め切りに、何とか間に合った。

数日後、頼んだ楽譜が届いた。

楽譜の楽曲構成の旋律を見た華音は、唸った。

テノール、バスの旋律が響かないと、和声として成立しなかったからだ。

合唱部には男性部員がテノール三人、バス二人しかいなかった。

華音は自室の電子ピアノの椅子に座り、それぞれのパートのメロディーを弾き溜息をついた。

既に、県大会合唱コンクールAグループに出場申請してある。規定では三十二人以下となっている。部員二十六名のうち大半が女子生徒であり、男子生徒を六人追加したかったが、なり手を探すのに苦労することは目に見えていた。

華音としては、ソプラノ、アルトと男性の混声三部合唱に編曲を試みた。和声を念頭にメロディーを置き換えてみたが、うまくいかなかった。ここは、コンクールのときだけでも男性部員を補充するしかないと心の中で決め、ベッドにもぐり込んだ。