イチローの大記録に寄せて

(一)

日本の多くの野球評論家の中でも、既に故人となっているアメリカ大リーグの好打者、ジョージ・シスラー(George Sisler 一八九三~一九七三年)という名の選手がいたことを知っている人は意外に少ないのではないだろうか。

G・シスラーは、セントルイス・ブラウンズというチームに所属し、一九二〇年、年間シーズン最多安打257本の大リーグ記録を打ち樹てた選手である。この年彼は、4割7厘をマークしている。二年後の一九二二年には再び4割2分を打ち、年間安打数も246本放っている。更にその年、41試合連続安打も達成している。

一九一五年~三〇年の約十六年間の現役生活の中で、首位打者2回、3割5分以上5回(うち4割以上2回)、年間200安打以上6回、生涯通算打率3割4分、同通算安打数2、812本の記録を残している。大打者というより、イチローと似た俊足で、安打製造機型の左打ちの好打者である。

これだけの記録を繙いても、このG・シスラーという選手が過去の大リーグに於ける偉大な打者であったことが解る。

奇しくも、シスラーの死んだ一九七三年は、イチローの生まれた年であることを思うと、そこには何か不思議な因縁のようなものを感じずにはいられない。

当時は近代野球の草分け時代で、現代野球とは様々な点で較ぶべくもないが、打撃の方は何と言ってもその華々しいホームランに人々は魅了されていたのである。現に一九二七年は、あの有名なベーブ・ルースが60本という年間本塁打記録を樹立した年である。

現代でも特に満塁ホームラン(グランドスラム)となれば、一挙に4点もの大量得点が入ることもあって、確かに野球の醍醐味の一つではある。