千春
まゆ実は情報弱者で、メンタルも弱いかもしれない。電車に揺られながら、わたしはそんなことを考えていた。身じろぎもせず茫然自失とするまゆ実を思い出すたびに、口の端が持ち上がり、不気味な笑みになる。
目の前に座る気弱なサラリーマン風情のバーコード頭が、怪訝な目でわたしを見ている。
何か文句ある? 吊り革を持つ手に力が入り、キッと睨んだ。
「ひっ」
とバーコード頭は怯え、すぐさま目をそらす。わたしは持っていたスマホに視線を戻した。
画面はツクモハルカのプロフィール。わたしが彼女の名前で登録した、フェイスアルバムのサブアカウントである。原則、一人一アカウントだが、わたしは規約を無視して利用している。他のユーザーに迷惑をかけなければ別にいいんじゃない?である。もっとも、停止や削除などのペナルティをいつ課せられるかわからないが。
スマホをいじり、九十九はるかのネット記事を表示させた。SNSを通じて知り合った下衆なITエンジニアに依頼して特別に作ってもらった、いわゆるフェイクニュースだ。まゆ実が動揺を隠せずにいたところを見ると信じ込んだようである。
こんな嘘にたやすく騙されてしまう人の頭ってどうなっているのだろうか。よほど人がいいのか、バカかのどちらかだ。
いや、まゆ実はバカに違いない。だからいじめの加害者になるのだ!
ふと、車窓に顔が映った。自画自賛でなんだが、まゆ実にそっくり。というより、まゆ実そのものだと思う。まゆ実に興味はまったくないけれど、自身の卓抜した整形メイクでもってまゆ実に変身した自分に、とても興味をそそられる。
この先、自分でもどうなるのか予測がつかないが、迷わずにゴールに向かえば、未来はきっと明るいはずだ。ここまでシナリオ通りに復讐計画は着々と進んでいるのだから。